春とヒコーキ土岡哲朗

スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明けの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

ありがとう。でも、まだ飲み込めていない。これから消化していく。

(2019年公開初日に観て、数日思いふけったときの感想です)


正直、戸惑っている。面白かった、楽しかった、ありがとう。でも、しっくり来なかったところも多い。だけど、スター・ウォーズを最高に楽しめる自分でありたい。今回、見ていてどこが違和感で、どう思って見ればそこは楽しみに変わるのか。チューニングする。

パルパティーン復活が唐突。今回楽しみきれなかったのは全て、その唐突さに戸惑っているうちに乗れなかった、に尽きると思う。
オープニングクロール1行目で「死者の口が開いた!」に困惑。皇帝の復活は宣伝で分かっていた。それを、「死者の口が開いた」「声の主はパルパティーンだった」と言われ、「どんな現象が起きたの?」が大きかった。急展開な上に、文章の言い回しも不思議でワケが分からない。前作までに何もフリがない状態で死者の再登場を文章で済まされるのはさすがに無理を感じた。

そして、すぐに皇帝とカイロ・レンが遭遇。せめて登場人物は驚いてほしいが、もうパルパがいることを受け入れていて、完結させるために急だなという印象。三部作だが計画性緩めだったため、前作終了時点で今回が何をやる話になるのかが全く見えていなかった。だから、急なスタートで押し切る方が正解と判断したのかも。9部作と考えると、一貫した敵としてパルパティーンがいても良い。それに、メタ的に、レジスタンスにとっては「先人が残した負の遺産」、カイロレンにとっては「史上最強になることを阻む、いつまでも邪魔な過去」という象徴が皇帝。それを冒頭から設置済みで突っ走れているのは良いのかも。カイロ・レンがシリーズ最大の悪、皇帝の下につかずに自分のために動くのが見られて良かった。急に感じる皇帝復活だが、3であれだけ思わせぶりに「ダークサイドなら死を逃れられる」と語ったのだから、死者蘇生が実行される場面もなくてはいけない気もするので、やるべきことをやったとも言える。

前作からの軌道修正という労力。
『最後のジェダイ』支持派な自分でも、嫌いな人の多い『最後のジェダイ』を帳消しにするのではないかという予感はあった。そしたら実際、スノークは皇帝の作った幻で、レイの血筋は新しく語り直された。前作の好きな部分をなかったことにされる悲しさ、公式が前作を失敗と認めているようなカッコ悪さ、軌道修正に労力が使われていることへのガッカリがあった。ただ、「どんなに先人の作った過去から離脱しようとしても、自分たちは過去の上に立っている」というテーマをメタ的に捉えることもできなくはない。スノークもファースト・オーダーも皇帝の計画だったことで、レイ三部作が1~6と繋がりのあるものになって、この三部作だけ浮いた存在ではなくなった。9本で一つのサーガになった見ごたえはできた。

脚本の引っかかったところ。
レイの皇帝探しの冒険だが、冒頭でカイロ・レンが達成したことを90分くらい?かけて見せられているじれったさを感じた。でも、レイとポーとフィン、そこにチューイ、BB-8とC-3POもいる冒険として見せてくれたのは楽しかった。
レイが皇帝の血筋なんだろうなというのが冒頭の皇帝の口調から丸わかり。レイがフォース・ライトニングでチューバッカが乗っている(と思われた)輸送船を爆発させてしまって「チューイ!」と叫ぶのは、さすがにマヌケ。でも、フォローしておくと、輸送船をフォースで引っ張る様は強すぎて気持ちよかったし、それをカイロ・レンが止められるのもまた良かった。
最後のレイとベンのキスは、ありきたりなところに落ち着いた気がした。『エンドゲーム』の最後が、映画におけるハッピーエンドの象徴、キスを上手く使って締めたのに影響されたのか。C-3POの記憶消去は、感傷的にしたい割にはあっさりした印象。あと、記憶消去が大ごととして扱われたことで、3で彼の記憶を消したベイル・オーガナがすごい残酷なことをしたみたいになってる。しかし、9作全てに唯一出演したアンソニー・ダニエルズへのリスペクトの場所があったのは良かった。


皇帝の血を引いていたレイ。
7でワクワクと宇宙に出て、8で自分が特別な出自ではないことにショックを受けながらも、それでも主人公になれるんだと胸を張った。それが今回、自分が皇帝の孫だとを知る。8での出自と矛盾するようだが、あちらはレイ自身がそう思っているのをカイロ・レンが心を読んで言ったことなので、矛盾はしていない。
レイは、自分の力が悪由来であることに怯える。自分も悪に堕ちる恐怖。『ジェダイの帰還』でルークがダークサイドと対峙したよりもはっきり描かれていた。アナキンは「闇落ちに恐怖を抱く」という描写はなかった。なので、初めて主人公が闇落ちについて葛藤するのが鮮明に見られた。
レイアは、彼女の血筋を知った上で迎え入れていた。血筋ではなく、レイ自身を見ていたから。ダークサイドに堕ちる可能性、それはルークがベンに垣間見て疑ってしまったもの。レイアはその点ではルークを超えた。
自分の中に感じる悪い可能性よりも、他人がポジティブに期待して見てくれていることを大切にしよう。それが、現に自分が他人に、世界に表現できているものなんだから。

皇帝から「私を殺して女帝になれ」と言われても、攻撃しないことを選んだレイ。倒すべきものに対しても、怒りに任せるのは正解ではない。前作が「誰でも主人公になれる」を描いた上で、今回は出自設定はひっくり返したが「だ、れ、で、も!主人公になれる」というメッセージ。自分にレールが用意されていないからこそ自由という前作と、自分に用意されたネガティブなレールから脱却する自由を描いた今作。最後に「レイ・スカイウォーカー」と名乗る。自分が何者であるかは、自分で選ぶ。


悪のカリスマから英雄、カイロ・レン。
冒頭、皇帝を追って敵をなぎ倒す様がカッコいい。スノークを殺してトップになった彼は、自分と同じ道の先人・皇帝と対面しても崇拝せず、自分の目的のためにレイを追う。そもそも彼の目的とは?ベイダーのハードルを越える強さ。ルークに殺されかけた件から、誰にも侵害されない強さ。それを求める中で孤独になる。孤独の戦いを自分以外にもやっているレイに、共感を求める。彼の改心が単純だったのは残念。お母さんが死んだら揺れるんかい。8で、スノーク殺しにより悪として迷いがなくなった印象が強かったので、肩透かしを感じた。でも、8もルークとの決闘では英雄の覚悟を決めたルークにビビッていたから、厳密には8でも、瞬間的に悪の確立が描かれただけで、彼はあくまで「トガった若者」。カイロ・レンが悪役としてかっこいいのはあくまで、スノーク殺しや今回の中盤までで成り立っているので、彼の改心を受け入れよう。

父ハン・ソロが目の前に現れる。あくまでカイロ・レンの記憶の中でのこと。7で殺してしまったときと似たショット、会話を繰り返すことで、あのとき踏み外した道をやり直す。先人に憧れる中で、ルークに見放されたショックで悪に堕ち、そちらの先人ベイダーを追いかけた。しかし、結局は憧れた人たちに「お前すごいな」と言ってもらえる自分でありたい。レイを闇に誘うのも、レイの力を利用したいのではなく、ぼくの世界に一緒に来てくれという理解者を求める感覚。だから、一旦トガって自分の道を究めた先で、人に向くという初心に帰る。
ベンはレイを生き返らせたが、やはり命を蘇らせるのはダークサイド由来の力かも知れない。それができたのは、彼が一旦トガってダークサイドを突っ走ったからで、無駄じゃなかった。光しか認めないのではなく、闇もどこにでも、誰にでもある。闇を知ってこそ、人を守れる。臭い物に蓋をしていた旧ジェダイ騎士団のやり方よりもアップデート。

キャラクターたちを最後に目に焼き付ける。
レイアの準ジェダイ感。
レイアがフォースが強いと5と6で煽られたのに、それが生かさていなかった。今回は、亡きルークに変わってレイの修行を見届けたり、ベンに呼び掛けたりと、彼女のフォースやジェダイへの理解が重要になっている。これは、ルークとハン・ソロの退場で指導者がレイアしかいない状態になったから描けたと思う。レイがレイアを「マスター」と呼ぶのも良かった。正式なジェダイでなくとも、師匠にできる人を自分で見つけるレイの考え方の良さ。レイアの思いを継承しているのを、「実は作っていたライトセーバー」という形でメインの最終決戦に登場させたのは良い演出。

余裕のあるルーク。
8では、完璧でない自分でも英雄として待っている人がいるなら引き受けよう、と覚悟が決まってカイロ・レンと決闘した。その道のりの結果、今回の初登場、レイが投げたセーバーをキャッチし、「ジェダイの武器に敬意を払え」と自分が前作でセーバーを放り投げたことも含んだユーモアを見せ、余裕がかっこよかった。

皇帝の悪としてのオーラは立派。彼1人相手に、ジェダイ側は3世代の代替わりを要していて、パルパティーンが事実上、群を抜いて強い。死んでいることを白目で表現したのは、スター・ウォーズ史上最も怖いシーンかも。「怒りに任せて私を殺し、女帝になれ」と、どっちに進んでもレイの負けという状況を作る狡猾さはさすが。

ハックス将軍は、カイロ・レンを嫌うあまり、レジスタンスに情報を流すスパイになっていた。一貫して愛すべきダサキャラ。「カイロ・レンが負けるのを見たいだけ」というモチベーションに、キャラクターが自由に動いているのを感じた。

ポーは、7ではやる気に満ちた前向きな自信家。8では、やる気が先走り、経験の足りなさから失敗を犯す。9では、乱暴なワープを繰り返す危うさで8との整合性はありつつ、周囲を見る視野も獲得した印象で、7と8を合わせてさらに成長した人格。7と8での印象のずれが解消された。フィンは、すっかりたくましくなった。自分と同じ脱走兵のジャナと出会う。冒険していくと、共感できる仲間と出会える。


先人と向き合う三部作、完結。
7は先人みたいな冒険をおれらも負けじとするぞ、という話。
8は先人の神格化をやめておれが最強になる、とトガりを持って示した。
9は、さらにその上で「無視したくなるときもあるけど、過去はどうしても存在する」という話。
このメッセージについては、三部作でバトンを繋げることになんとか成功したと思う。過去に対して、感謝と憧れを原動力に、ハードルは乗り越える気概を持ち、罪は断ち切る。
初代主人公3人が全員いなくなった。先人は、いつか必ずいなくなってしまう。でも、彼らの歩みは後続の者の心に刻まれている。消え去ってなどいない。倒れたレイに、歴代のジェダイたちが声をかける。過去を恩恵として受け入れれば、その蓄積は強さとして宿る。レイが血筋の悪さを引き継がない選択をし、ベンは血筋のありがたみを受け入れた。過去にはその二面がある。

でも、結局レイたちは「先人に憧れた後続」の物語しか描けなかった。この時点で、すごいのはルーカスが築いたSWで、それををしがんだものだと言ってしまっている。


9部作、完結。

アナキンがフォースにバランスをもたらすと予言されて始まったサーガ。アナキンは一度闇落ちしたものの、ルークに助けられ、親子で帝国を破壊。それでもはびこっていた悪を、血筋は違えどルークとレイアに導かれたレイ、アナキンの血を引くベンが倒した。三代のリレーがつながった壮大さと、過去への感謝が染みる。ダークサイドの誘惑を新たな角度で描き、闇も存在して然るべきものとして描いたのが好き。闇が存在しないなんて無理で、存在を受け入れた上で、光に立つ。そういう意味で、「バランス」という言い回しが今まで使われていたことにも納得がいく。レイを「最後の希望」と称するのは「新たなる希望」から始まったシリーズの集大成感を煽っていて良かった。

レイがBB-8のアンテナを気にする描写が3作連続で描かれた。
レイは、曲がったものを直す人。世界が悪くなっていく1~3、世界を良くするために戦った4~6、その反動でまだ荒れている世界を直す7~9。そう思えば、あくまでオリジナル三部作を中心としているが綺麗な9部作。


素直に、よかったとこ。
カイロ・レンを演じるアダム・ドライバー素晴らしい。彼が演じるカイロ・レンを見られて良かった。
最後の味方大集合は、『エンドゲーム』がよぎってしまったが、クレイトの戦いで助けが来なかったことと対になってて良い。
フォースの遠隔会話で、ものの受け渡しが行われるのも良かった。最後はセーバーを受け取り協力する。敵か味方か曖昧な関係が続いたけど、思い切り信用してパスするのが最高。