めちゃくちゃ面白かったけれど、主人公格のヘレーラが一度つかまって拷問されるシーンの前、なにかエピソードがとんでいないだろうか。話がわからなくなった。
何者かの集団によって侵略される街を、秘密裏に守るスパイのような男たちの市街戦を描く。
カサーレス、ボルヘスが原作ということで、「暗殺のオペラ」を確かに想起させる。
正直、『暗殺のオペラ』のような説明くさい野暮ったさがなくて、かなり面白かった。ブレッソンというより、メルヴィルのようなノワールになっているけれど、メルヴィルのようにゆっくりやっていてはこうはならなかっただろう。
ヘレーラが、妻と対面するシーンで、ぐるっと妻の正面から後頭部へ、またはその逆へ頭の周りをカメラが旋回するシーンが三回ある。
切り返しに対する態度、というかこういう風に切り返しをやらないという態度が、この映画が会話をほとんど重視していないことを示している。
いつも侵入や潜伏が可能な建物の構造を撮っており、それも俯瞰的にではなく、人物を中心に配してそこから覗くように、全体のわからない建物の、等身大の構造を部分的に示している。
冒頭近くの、チームの一人のハゲ頭の巨漢男が足音に耳をすまして、その主が通り過ぎるのを待つと、浮浪者だったので安堵するというシーンがある。こうして警戒と不意打ちによってだけ、コミュニケーションが成り立っている。そんな編集、撮影の文法が可能だというのに驚く。
だからこそ、ヘレーラは何もないサッカーコートのような場所で打ち捨てられて死ななければならなかったのだろう。見通しの良い場所こそ、この映画のラストにふさわしい