すだれ

丘陵地帯のすだれのレビュー・感想・評価

丘陵地帯(2009年製作の映画)
4.2
『丘陵地帯』(2009)、『レイテ・クレームの味』(2012) 場所:神戸映画資料館

物語や説明もなければ言葉も少ない画と音による強度に満ちた2つの作品。『丘陵地帯』はポルトガル南部の雄大な大地と豊かな自然のなかで働く人々の映像詩。ワンカット目に赤く広大な丘陵地帯が360°のパンによって描かれる。そしてひたすらに労働者たちが次々と映し出されていく。稲を拾う老婆はミレーの『落穂拾い』であり、窯でパンを焼く女性はヴァルダの『ダゲール街の人々』を想起させる。そこにマニュアルなどなく、その労働者自身の労働が画と音によってのみ語られる。ラストカットは羊飼いが池に羊を大量に連れてやってくる。それはまさにホークスの『赤い河』の牛たちだ。そういった歴史に立ちながらこの映画はその瞬間にしかない労働を記録していく傑作である。
『レイテ・クレームの味』はポルトガル中部のかつての職場である学校の前の家で暮らす96歳と98歳の元教師の姉妹のゆっくりと流れる日常生活。
おばあちゃんたちがひたすらに食事を作ったり、散歩をしたり、部屋で歓談をしたり、たったそれだけなのだが画が非常に素晴らしく、絵画に映るおばあちゃんたちが動き出している錯覚を覚えさせる。家の前には元職場の学校が窓を開けると広がっておりそのショットのまま学校を懐かしむ姉妹の声が聞こえる。風によって窓のカーテンがなびき、まさにその学校が姉妹の記憶を覗き見ているかのように存在する。廊下のショットでは奥行きに小津を感じたりなど所々にオマージュがなされている。しかし、こちらは74分と長く、描き方が冗長に感じることもあり長編には向いていないのではないかと感じた。
そして両者においてとても面白いのは音がとてもフィクショナルに作られていることである。一作目ではロングショットで湖で労働をする人を映しているのだが、音は完全に近接的に録られたものであり、ニ作目では学校のロングショットが映っているのにも関わらず音は内部の子どもたちの声が聞こえてくる。これは家庭用カメラという機材的問題もあるだろうが、このような手法はとても興味深い。また、両者において描かれるのは俗に言ってしまえば近代において失われ、残った「人間の営み」である。ドキュメンタリーの根源的な使命であるこの「人間の営み」を監督は歴史から受け継ぎ、引き継いでいく。新作を楽しみにしております。
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