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エンドレス・ポエトリーのMikiMickleのレビュー・感想・評価

エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)
4.2
3年前、アレハンドロ・ホドロフスキーの23年ぶりの新作『リアリティのダンス』と、未完の大作『DUNE』のドキュメンタリーが公開された時、どれほど鳥肌がたって心を騒がされたか、わからない。まさか新作が見れるなんて思ってもなかったし、あの時の興奮は今も鮮明に覚えている。
一番最初に『エル・トポ』を見た衝撃も。

クラウドファウンディングで資金を調達して制作された今作も、もちろん楽しみで仕方なかった‼ まさに待望‼

今作は『リアリティのダンス』の続編であり、前作同様に彼の自伝的映画である。
舞台は前作のラストシーンから始まる。

ホドロフスキー一家はチリのトコピージャを離れ、首都のサンディアゴへと引っ越す。そこは、血と横暴にまみれ、荒廃した繁華街。人々は表情もなく、人生に希望もないような世界。
アレハンドロ少年は父の暴力と圧力に怯え、男らしさと金銭主義を押し付けられる。そんな時に出会った1冊のロルカの詩集。瞬く間に詩の魅力の虜になったアレハンドロだったが、父はそんな彼を「オカマ」だと罵る。

そんな中、親戚一同の前で、父の勧める医学の道ではなく詩と生きる事を宣言し、ため込んでいた感情が爆発する。その姿に惚れた従兄弟は、彼を芸術家姉妹の元へと連れていく。そこで出会うアーティストの人々。アレハンドロは初めて自分を表現する喜びを感じるのだ。出会う素晴らしい詩人たち、激しい女性詩人ステラとの恋。まさにアレハンドロにとっては全世界への解放だった。そして…


とにかく素晴らしい映画だった。

まず、舞台畑出身でもあるホドロフスキーらしさが非常に出ているような作品だった。
まるで舞台の映像化。前衛的であり、イマジネーションが溢れている。
画面に溢れる鮮やかすぎる色彩と、賑やかさと切なさと悲しみのある喧騒と猥雑さと。サーカスや小人症の人々も相変わらずの登場。妖艶さも悲しみも全てがエネルギッシュなもの。

どこまでが幻想でどこまでが現実なのか。その境い目が分からなくなる唯一無二の心地良さ。倒錯感。白昼夢のようでもあるのに、何故かリアル。

そして、全編に溢れるポエトリーな世界。詩でも表される感情もまた、ホドロフスキーの頭の中を覗いてるようだ。
彼にとって詩とはただの文字ではない。「行為」である。表現する事。行動する事。
つまり、まさに人生はエンドレスポエトリーなのだ。

ホドロフスキーの映画は全てにおいてエネルギーに溢れている。難解であった初期作品でも、後期のわかりやすい作品でも(とはいえ決して大衆的なものではない)。生きるエネルギー。人生を謳歌するパッション。特に後期の作品では人間賛歌をひしひしと感じる。
それは過去の話であるにも関わらず、懐古的ではないからでもある。ノスタルジーに浸るものではない。無邪気な老人ホドロフスキーの中には、悩み苦しむ幼少期や、喜びを知った青年期が、今も鮮やかに生き続けているのだ。

そして、まさに彼の提唱するサイコマジック‼
これはホドロフスキーにしか作る事の出来ない世界。アクの強すぎる世界。生きる事に正直すぎる彼の独自の世界。溢れ出る生命力。これを映画館で見れる喜びたるや‼‼
彼の自伝はまだまだ続く。是非続きを見せてください‼‼

まだまだ色々書きたい事がある。キャスティングにしても、若き青年ホドロフスキーを演じてるのは末の息子だし、父ハイメを演じるのは未完の大作『DUNE』で出演予定だった長男だし。セリフが全てオペラの母と、ホドロフスキーのミューズとなった赤髪ステラは一人二役。これらにも深い意味がある。

老人ホドロフスキー本人も前作に続いて出演するが、彼の言葉の迫力は胸に突き刺さる。若き自分に対してである言葉は、見ている私たちに対してのものでもある。

本当に、素晴らしい監督。
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