イホウジン

エンドレス・ポエトリーのイホウジンのレビュー・感想・評価

エンドレス・ポエトリー(2016年製作の映画)
4.1
成功も後悔も全部ひっくるめて「人生」

“自伝的映画”の代名詞とでも言えそうな作品である。観客に観せるための映画の体こそ成しているが、観客を置いてけぼりにしかける程に自己中心的なストーリーや演出で、まさに監督の自己紹介のような映画とも解釈できよう。
しかし今作は他者である観客にとっても魅力的なものになっている。2時間程度の映画だが、ほとんど退屈はしなかった。それは監督が自分の感覚だけで映画を作ることを否定しなかったからかもしれない。
それはまず、世界観や演出に現れている。今作は自伝的映画と言うにはファンタジーの要素がかなり強い。酒屋の棺桶の中みたいな雰囲気はどう考えても想像上の世界でしかない。だが、それ故に、主人公があの場でどういった印象を受けてどう感じたのかが言葉にならずとも画面から雄弁に伝わってくるのだ。場の空気を空間で再現する手法は見事である。
ストーリーもまた非常に感覚的である。ちょうど主人公の唄う詩のように一見するとまとまりを感じさせないような展開が相次ぐが、それがかえって生きることが「成功」も「失敗」も両方を内包するものだということを感じさせてくれる。終盤の展開から察するに今作は監督の晩年の境地とも考えられるが、今ここから過去を振り返った時、自分の人生を全肯定も全否定もできないのは私たちにとってもごく自然なことである。だとすると、今作は「サクセスストーリー」や「バッドエンド」に傾きがちな“自伝的映画”のジャンルに対して、生のリアリティを突きつけた作品とも解釈できよう。

思いのほかシンプルな映画だったように感じた。自伝的映画のダイナミズムを意図的に避けたとも考えられるが、意外と映画としての“見どころ”は少なかったように思える。言ってしまうと、序盤のシャッター街が一気にタイムスリップする場面が映画のピークだったような気がする。その後は悪く考えてしまうと単なる尻すぼみである。子ども時代のパートが少なかったのも少し口寂しかった。後の登場人物の多さを考えると致し方ないのかもしれないが、思春期の心理的な葛藤とかもっと見たい部分は確かにあった。

コロナ第1波明けの映画館での映画の1本目に選んで正解だった。
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