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テラフォーマーズのnetfilmsのレビュー・感想・評価

テラフォーマーズ(2016年製作の映画)
3.4
 遥か遠い未来のトーキョーのスラム街、大雨が降る人混みの中で、あるカップルが機動隊に挟まれ、絶体絶命の危機に陥っている。男は女の肩を強く手繰り寄せ、ビルボードの強い光に囲まれた中で、最後の瞬間を悟る。その姿を少し離れたところで高みの見物をする男がいる。クローネンバーグの『メトロポリス』のような黒いハイテク車からゆっくりと降りてきた男は、タブレットの画面上に目を泳がす。男の正体は天才科学者である本多(小栗旬)。たった今、機動隊に囲まれ、身動きの取れないカップルを生け捕り、あるミッションに参加させようとしている。薬局の近未来的映像とネオン・サイン、謎の東洋人と屋台、そして大雨の描写。まるでリドリー・スコットの『ブレードランナー』のようなスラム街のセットのあっけらかんとしたオマージュぶりが妙に心地良い。本多の目的は果たして何なのか?高額なギャラに釣られ、彼ら総勢15人を火星のゴキブリ退治に参加させようとするが、生け捕られた男・小町小吉(伊藤英明)は首を縦に振らない。本多のいけ好かない態度に一度は拒否をするが、小吉の彼女である秋田奈々緒(武井咲)が躊躇なくサインし、小吉も仕方なしにサインをする。こうして本多に任意で集められた精鋭15人を乗せたスペース・シャトルであるバグス2号に乗り、地球から2億2000km離れた火星へと飛び立つのである。

火星への移住計画は、人口の爆発に伴う形で計画される。太陽熱のほとんどが届かない火星では、平均気温が−58℃となり、とても人間が住むことは出来ない。この打開策として考えられた火星の温度を上げるための計画が、コケとゴキブリの環境適用に他ならない。大量のコケとゴキブリで地表を覆うことで徐々に大気量を増やし、人間が住める温度へ上昇させる計画は、500年という長い歳月をかけて当初の目論見通りに向かいつつあった。バグス2号に乗り込んだ15名の船員たちは、元警官、やくざ、傭兵、キックボクサー、天才ハッカー、売春婦、連続殺人犯など、全てギリギリのお金で底辺の生活を送る日本人ばかり。簡単な仕事だと軽い気持ちで請け負った船員たちは、思い思いに過ごしながら、火星への到着を待っている。全員がまるで『スター・ウォーズ』のストーム・トルーパーのような、黒と白の機動歩兵隊用のアーミーを着せられているのが笑える。女たちは胸の部分が異常に膨らみ、よく見るとケツの部分がただの布 笑。艦長の堂島(加藤雅也)は神妙な表情で、それぞれの分担・配置について説明する。まるで緊張感のない艦内の会話、交互に繰り返される冗長な回想シーンの弛緩振りが、三池映画だとわかっていても、なかなかしんどい。大枠の物語が一件緻密に見える緊張感溢れる設計なのに対し、艦内で繰り広げられる会話劇は、一向にソープオペラの域を出ない。やがて火星に着いた15名はようやくことの重大さに気付くが、それでも繰り広げられるべき物語のスケールと、そこで行われる惨劇との計算が合わない。

冒頭の2500年代のトーキョーのイメージが、まんまリドリー・スコットの『ブレードランナー』へのオマージュだとしたら、火星に乗り込む艦内の描写は『エイリアン』だし、辿り着いた星で集合するゴキブリだらけの光景は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』や『300スリーハンドレッド』のVFX書き込みにも近い。鈍重な探査車で茶褐色の砂地を疾走する場面には、去年の大ヒット『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を想起せずにはいられない。人間から虫に変化するイメージそのものは、クローネンバーグの『ザ・フライ』とよく似ている。そして映画全体の根底にある人類とテラフォーマーたちの壮絶な戦いは、ヴァーホーヴェンの『スターシップ・トゥルーパーズ』抜きには語れない。今作は三池崇史のフィルモグラフィの中で、最も華麗にメタ・フィクションと戯れた究極のメタ映画である。ポール・ヴァーホーヴェン作品をスクリーンで見終えた後の虚無にも似た薄っぺらさが全編に漂う。一番笑ったのはそれぞれに注入される虫の特性を映像化したチープなVTR映像 笑。そして何度も登場したテラフォーマーの顔の意味ありげなクローズ・アップ 笑。もはや正統派2枚目路線には戻れないのかとため息が漏れる小栗旬、ケイン・コスギの壮絶な日本語と見事な討ち死にっぷり 笑、山田孝之のまるで今井正映画のような昭和の貧乏設定に、クスリとも笑わない子供がおかしいのではなく、三池監督の演出がはなっから狂っているのだ 笑。リドリー・スコットの『オデッセイ』が火星に一人取り残された男の孤独な悲哀を表現していたのに対し、今作はゴキブリの津波から、2人の美女が殺人鬼を必死で守ろうとする 笑。その馬鹿馬鹿しいほどのイキっぷりにやられる。15億かけたG.W.用の大作映画で、過激で壮大なメタ演出を施した三池監督のユーモアと勇気に、ただただ頭が下がる痛快作である。
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