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黄金のアデーレ 名画の帰還のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

アメリカに住む82歳のマリア・アルトマンがオーストリア政府を相手に裁判を起こす。それはクリムトが描いたマリアの叔母の肖像画「黄金のアデーレ」の返還要求だった。ナチス統治下のオーストリアで、ナチスによって奪われたその名画には、マリア自身と彼女を取り巻く人々の様々な記憶が詰まっていた。

あのクリムトの絵にこんなお話があったとは知らなかった。
邦題が既にネタバレなのだが、ナチスに没収された世界的に有名なクリムトの絵画をめぐり、オーストリア政府相手に訴訟を起こした女性を描いた実話ベースの歴史ドラマの秀作。

ヘレン・ミレンが演じる82歳のマリアのサバサバしたキャラクターが気持ち良く、駆け出しの頼りない弁護士ランディと親子のように歳の離れた男女の友情は、バディ映画の面白さもある。

奪われた絵画を国家を相手に取り戻すことには、ナチスによって奪われた家族の思い出を取り戻すという意味があった。
金銭的、芸術的価値よりも老い先短いマリアには思い出が人生の価値となっている。
だが、過去を振り返ることはいい思い出ばかりではなく、思い出したくない思い出もある。
家族を祖国に残して夫とスイスへと亡命した、マリアの哀しい後悔の物語は泣ける。

オーストリアはマリアの愛する祖国だが、ナチスに加担して絵を奪ったことを認めさせないといけないとは、何とも心苦しい。
しかし、裁判に勝利し、絵画を取り戻しても、生活を変えなかったマリアに、目的が金でも売名でもなかったことが見て取れる。
その高潔な心根は感動的だ。

アメリカ映画は裁判モノが好きだが、本作は裁判のシーンは必要最小限にして、交渉の間の心の葛藤をメインに描くことに成功している。
ユダヤ人であったランディの祖父も実は収容所で死亡したホロコーストの犠牲者であることを知り、俄然ランディが裁判にやる気になるというのは、都合の良い展開だが。

一見すると大好きな叔母の描かれた絵を取り戻すというシンプルな話だが、そこには戦争時にナチスに加担した母国に罪と向き合ってほしいという願いが込められている。
被害者、加害者としての親世代の歴史、国や家族を捨てた感情など様々な要素が、たった一枚の絵画にドラマチックに絡まっている。
ナチスの加害者はドイツだけではない、ということが語られるのは貴重だ。
戦争の罪が一味違う角度から思い知ることができる大変勉強になる一編である。
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