シズヲ

ピクニックのシズヲのレビュー・感想・評価

ピクニック(1936年製作の映画)
3.0
そういえばジャン・ルノワール、あんまり見てなかったことに気付く。公開前に第二次大戦によってフィルム消失の危機に瀕しながらも何とか乗り越え、戦後になって米国に亡命していた監督の許可を得て再編集したうえで上映されたという逸話が面白い。撮影自体は未完に終わってることもあり、40分程度の中編映画に収まっている。確かにドラマ部分に関してはもっと語るべき事柄がある気がするような、そんな勿体無さがある。

貴族一家の鼻に付くテンションにも男二人組の下心丸出しな態度にも何一つ感情移入できず、作品自体に没入できなかった節は否めない。とはいえ登場人物達はいずれも奇妙な濃さがある。そして能天気な雰囲気が終盤から怒涛のメロドラマへと転がっていくのは素直に驚く。陽気で愉快だった休日の姿が、あの場面を皮切りに“取り返しの付かない思い出”と化す。扇情的かつ官能的なキスシーンや降り注ぐ“雨”の描写など、悲壮感に溢れた終盤の余韻は演出としては印象深い。

絵画的な画面構図には確かに瑞々しい味わいがあり、自然美の中に登場人物を融和させるかのような趣に満ちている。前述した悲壮感もさることながら、手持ちカメラも無い時代にあのブランコの映像を撮っているのは凄い。ただ感情移入しきれない内容も相俟って、多幸感があるのかはよく分からなかった。ジョン・フォードを見ている時は例え戦前期の作品であっても画面構図やアクションに幾度となく高揚させられるけど、本作からそういった感覚は掴み切れなかった。

本作が持つ魅力や前衛性はある程度理解できるものの、他愛のなさすぎる話運びや登場人物達への引っ掛かりも大きく、感情的には正直あまり乗りきれなかった。教養の不足もあって本作の芸術性を咀嚼しきれていない節はあるので、もっとルノワールの映画を見ていきたくもある。
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