アキヒロ

怪物はささやくのアキヒロのレビュー・感想・評価

怪物はささやく(2016年製作の映画)
4.3
すばらしい。

「この物語、結局誰が善玉なの?」
「善玉などいない。だいたいが善と悪の中間なのさ」

主人公コナーは母が病に冒され、コナーを養っていくことが危うくなる中、祖母のもとに行く案が出ているが祖母とは馬が合わないコナー。
ある夜、夢なのか現実なのか、家の窓から見える大樹が立ち上がり、怪物の姿をとって窓辺に現れた。
「コナー、これから3つの物語をお前に話す。3つの物語を語り終えたら、お前が4つの目の物語を話せ」
怪物はコナーにそう言った。

怪物の話す物語はコナーのよく知る勧善懲悪の話ではなく、善や悪が明確に別れた単純な話ではない。
コナーはいじめられており、絶対的な悪を信じていて、善が悪を倒すような話を求めている。
物語がひどいと言って怒りだす。

その間も母の病は悪化していき、コナーの情緒はどんどん不安定になっていく。
ついにコナーの話す番になったとき、コナーはいつも見る母が崖から落ちる悪夢を見てしまう。
そのときに怪物は「お前の真実を話せ!」とコナーに急かすと、コナーは「もう終わりにしたかったんだ。母が死ぬんじゃないかと不安な毎日を過ごすのは辛い」と、実は「早く母に死んでほしかった」という本音を口にする。
コナーは母の死が迫る中で、どんどん不安定になっていく自分と周りに翻弄され憔悴していた。

この物語が深い面で真実を突いているのが、
「愛する人に生き続けてほしい」と思う気持ちと「早く死んで終わりにしてほしい」気持ち、愛する気持ちの中に「その両方が存在している」ということをブッチャケた点だと思います。
この矛盾した気持ちを整理するために、怪物は
①王子は村娘を殺害しながらも善王として讃えられた
②牧師は真実を言っていたのに愛娘二人を失った
③透明人間は透明なのに最も目立つ存在になってしまった
という「矛盾した結末を迎えた物語」を話して聞かせました。

この怪物もこんなにも恐ろしい姿をしていながら、最後コナーを見つめる優しい目。
おもわず涙がちょちょ切れました。
本当にすばらしいお話だったと思います。
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