むらむら

怪物はささやくのむらむらのレビュー・感想・評価

怪物はささやく(2016年製作の映画)
5.0
学校では「透明人間」として虐められ、病弱な母親を抱える、ステータスを不幸に全振りされたようなコナーくんが主人公。

そんなコナーくんの前に、夜中の12時7分にだけ現れるのは、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のグルートが「進撃の巨人」くらいに巨大化したイチイの木の怪物。キングコングのようにノシノシと現れた怪物は、「ささやく」というより「がなりたてる」勢いで、コナーくんに様々な寓話を語りかける。

怪物役はリーアム・ニーソン。スタンドインには、一日だけ「スパイダーマン」のトム・ホランドも参加したらしい。リーアム・ニーソンは、主人公コナーくんのお爺ちゃんとしても、写真の中でカメオ出演している。

妄想に逃げ込む思春期の子供の妄想、と考えると「パンズ・ラビリンス」を彷彿とする向きもあるだろう。あちらはトラウマになりそうな怪物がワンサカ襲ってきたけど、こちらは寓話として、全てアニメーションで語られていく。

このアニメパートが、影絵のような水彩画のような、絶妙にヌルヌル動いてて、大変よく出来ている。このパートだけでも、皆さん、観る価値あると思います。

怪物はいくつかの寓話を語る。王子様と姫の物語、調剤師の物語などなど。ただ、どの寓話も、単純な結末に終わらない。

寓話聞き終わっても、観てるこっちも意味が分からんし、さらにはコナーくんですら呆然としてる。

「という話だったのさ」と語り終えた怪物に対して、コナーくん「で?」って突っ込むんだよね。そしたら怪物は

「人間は複雑な生き物なのだ」

だって。雑なまとめかたしてんじゃねーよ!

しかも語り終わったら、「お前も何か喋れや」って話を逸らそうとするし。深イイ話をしたつもりでも、怪物自身も意味分かってねーだろ! あまりの結論のなさに、まとめサイトの「○○さんの年収は? 家族はいるの? ……結局、わかりませんでした」系のブログを引き当ててしまった時みたく、いい加減さにちょっとムカついた。

たぶんコナーくんも「おめー、語り部の立ち位置の癖に、投げっぱなしじゃねーかよ」ってムカついてると思う。

この映画、深すぎて、一回観ただけじゃ理解できないんだよね。親子連れで観てしまった父親とか同情するわ。子供から「これってどういう意味?」って聞かれても「早く寝ろ!」くらいしか答えられないもの。なので、親子連れの方は「きかんしゃトーマス」あたりを観たほうが安全。

これは深読みすることの大好きな大人のための物語。観終わった後に、感想を語り合いたくなる作品。この映画が語るように、人間って、そんな単純なものじゃない。コナーくんも、それに気付いて、大人になっていく。

あ、書き忘れたけど、祖母役のシガニー・ウィーバー、凄い迫力。途中、コナーくんに肩を震わせて怒るシーンがあるんだけど、他の映画では観たことないくらい激オコな演技が凄くて、「さすがエイリアンを素手で退治するだけあるわ……」って戦慄した。

続編があったら、怪物とシガニー・ウィーバーが、素手で殴り合うシーンを入れてほしいです!
むらむら

むらむら