SatoshiFujiwara

35杯のラムショットのSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

35杯のラムショット(2008年製作の映画)
4.3
過去に観たクレール・ドゥニ作品では(言うても観たのは5本位だが)1番気に入った、めちゃ良い。全てが抑制されたタッチで描かれ、一元的な意味に還元されることのないようなさりげない描写が、人生の重要な局面を描く作品であるにも関わらず不思議な軽み、と言うか無重力感を生む。冒頭のかなり長い列車のシーン、その走行を煙草をくゆらせながら延々と眺め続けるリオネル、やがて帰宅してくるその娘ジョゼフィーヌ。後で分かるようにこの男女は親子なのだが、それがにわかに断定しがたいように演出されており、恋人同士と言われても不思議ではない。そして、親子と判明してからもその視線のやりとりや身体的アクションからは近親相姦的な倒錯性が微妙に匂い立つ。この両義性の危うさ。

リオネルの彼女(?)であるだろうタクシー運転手のガブリエル、または同じアパートの管理人(と大寺眞輔氏は講義で言っていたが、それと分かる演出ありましたかね?)ノエにしてもその関係性は明らかに分かるような形で明示されることがない。曖昧さの快楽。もろもろを訝り探りながら本作に身を浸している時間の豊かさと快楽。

リオネルとジョゼフィーヌのリューベックへの小旅行、まさかのイングリッド・カーフェン登場、そして余りに慎ましやかなエンディングまでの流れの完璧さ。最高ですね。

※リオネル、ジョゼフィーヌ、ノエがキッチンのシンクに背を向けて立ったままそこに寄りかかりながら食事する斜めの構図による短いショットがかっこよすぎる。ジョゼフィーヌの部屋だったか、壁に「塩」って漢字が逆さまに額に入れて掛けられてんのは一体なんなんすかね? そーいやドゥニの最新作『レット・ザ・サンシャイン・イン』ではビノシュの部屋に『昭和残侠伝 血染の唐獅子』のポスターが鎮座していたのに仰天したのであった。
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