色彩が美しい。薄曇りの空の下、スモーキーなコバルトブルーと、ロイヤル・コペンハーゲンのお皿の色、パウダーブルー。その対照色であるレトロなオレンジや黄色。運河沿いに立ち並ぶおもちゃのような家々。ふとフェルメールの絵を思い出す(彼はオランダ人ですが)。
アイナー/リリーの苦しみと、アイナーがリリーになるにつれ男としての夫を失っていくゲルダの苦しみ。同時にリリーはゲルダにとって「金になる」モデルであるという苦しみ。そしてどんどん美しくなっていくリリー。肉体と精神が乖離していく苦しみ。
技術がまだ追いつかなかった。命をかけて彼(彼女)が手に入れたかったもの。この時からまだ100年も経っていない。揺らぎながら一生を生きていく人間の強さと夢。アイナー/リリーとゲルダを繋いだものは何だったのだろう。情だろうか?ゲルダにも分からなかったのではなかろうか。
最後の一瞬、「デンマーク人の女の子」になれたリリーは幸せだったのだと思いたい。