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リリーのすべてのKKのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.0
自分であって自分でない。

自分では本当の自分ではないと分かっているけど、周りの環境、社会の中で生きていくためには自分を偽らなければいけない。
自分は人とは違う、女性のような心を持っていることには気づきながらも、その想いは殺して男性として生きてきた。だけど、自分とは違う自分を装っていることにはずっと違和感を感じていた。リリーとして外に出た瞬間に、その違和感は明確になった。自分は女性であるという真実に気付いた。

ずっと自分ではない自分を演じて生きてきた。ある日突然、世界が広がり、「自分」が何者かが分かった。リリー本人は、本当の自分に気付けた、自由になれたと感じていた。だけど、周囲の人、妻からしたら、全く別の人間になってしまったように感じる。

リリーは本当の自分は、リリーだと分かっているのに、ゲルダからしたら夫がおかしくなっていると感じている。リリーが本当の気持ちを表現すればするほど、ゲルダにとっては辛くなる。愛する夫がいなくなってしまう、身体はここにあるのに、口調も、振る舞いも、性格も変わってしまう。夫を愛すれば愛するほど、元の夫に戻って欲しいと願えば願うほど、夫を傷つけてしまう。

アイナー、リリー、ゲルダ。誰かの望みは誰かを傷つけ、誰かの気持ちを慮ると自分が傷つく。辛すぎるよ。


本当の自分、自分の思うがままに生きようとしたリリー。だけど、それを病気、異常として治療させられてしまう社会。LGBTの存在が認知されてなかった時代とはいえ、その圧力に晒されていた人々は、どれだけ苦しかっただろうか。自分の思考を、自分の存在を否定される。自分が自分だと思っている人間は、異常であり、存在してはならない、治してあげる。
そんなこと言われたらどうすればいいんだろう?

治す?何から何に治すの?
今まで考えてきた思考を、人格を変えられたら、自分は何者になる?作られた人格は、本当に自分だと言えるのか?

「あなたの人格は間違ってるので矯正します。明日から正しい人格に治りますよ」
と言われて素直に従う人間がどこにいるんだ?


全ての人間において、自分が思う自分自身を表現する自由は当たり前にあるものだと思っているけど、そう思わない人も一定数いるのも確か。偶然自分が、自己認知と心が一致していたというだけで、ありのままで生きられる自由を持っていることは幸せなことだと思う。

だからこそ、誰もが自分らしく生きることが理想だと思うけど、そうなっていないのが現実でもある。

リリーのように命を賭けてでも自分であろうとした人、そしてそれを全て受け止めて支えてくれるゲルダのような人がいてくれたおかげで今がある。

でもゲルダも、全てを理解して受け入れられたわけではない。苦悩して、理解できなくて、それでもアイナーとリリーの気持ちを受け止めてくれた。
理解出来なくてもいい、だけど、否定しないで受け止めてくれるだけでも救いになると思う。




エディ・レッドメインは凄いなぁ。女性にしか見えない、、、。『彼らが本気で編む時は』『ミッドナイトスワン』でも、男性俳優が女性を演じる凄い演技だったけど、これも凄い。俳優って凄いなぁ。
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