よしまる

リリーのすべてのよしまるのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.2
 1920年代のデンマーク。

 互いに画家である夫婦。すでに名声を手にしている夫アイナは、売出し中ながら鳴かず飛ばずの妻ゲルダに頼まれて足のモデルを引き受けストッキングを履いた瞬間から、もうひとりの自分の存在を感じ始める。

 男性であるはずの彼の中にはかねてより女性が住んでおり、肉体の違和感が精神を蝕んでいき、夫婦の間にも亀裂が生じることに。

 最近、ポリコレブームもあってLGBTを盛り込んだ映画を観る機会が極端に増えているけれど、いわゆる同性愛とGID(性同一性障害)は異なるもので、まだ病気と認められることもなければ、ましてやおそらくトランスジェンダーという概念もなかったであろうこの時代にこんなにも激しい苦悩を強いられ、傷つきもがいていた人がいたのかと思うと胸が締め付けられる。

 デンマーク研究家のオールセン八千代さんによるレビューを拝見すると、原作はリリーが亡くなってすぐに出版されている。
 死の直前には離婚が許されなかったキリスト教社会において正式に結婚の無効と共に、リリーという新しい人間の存在が認められたそう。さらには亡くなる年には世界最速で同性愛の非犯罪化も決定(当時は同性愛は違法であった)。
 すでに世界初の女性閣僚が存在していただけでなく、女性の王位継承権が認められたり、人口中絶が合法化されたりと女性に対する地位向上、平等化が進められ、後には世界初の同性愛の結婚も法的に認められるようになった。

 映画とは異なり、リリーが最後の手術を受けたのはなんと48歳。心身ともに完璧な女性として生きたい、愛する人の子を産みたいという希望は果てしなかったと想像されるけれど、肝心のカルテは第二次大戦で消失したらしい。

 それでもリリーという「女性」がこの世に生を受け、苦しみながらも自分を見つけ、輝き生きていたことは紛れもない事実であり、彼女が後の世界に与えた勇気と希望は尽きることはないだろう。

 そんなリリーを力強く演じたエディ・レッドメインの素晴らしさ!
 彼の出演した「レ・ミゼラブル」でも監督を手がけていたイギリスのトムフーパーによる繊細な演出、同じく「英国王のスピーチ」でも監督と組んだ撮影のダニーコーエンによるデンマークやパリの湿った風景を再現した映像も相まって、気高く美しい映画となっている。



 オマケ

 ダニエルボンドのQ、ベンウィショーが本領発揮(?)で演じた同性愛者も見どころ。彼はリリーを男性として愛したのか、それとも女性として愛したのか。この物語においては重要な部分ではないけれど、LGBTの問題は表面だけ見ても理解しづらい…。

 フォロワーさん(お名前を記載して良いかお聞きしなかったので控えます)にご指摘いただき内容を一部訂正いたしました🙇‍♂️