Utopia

リリーのすべてのUtopiaのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.7
登場人物はみな誰もが美しく、ため息溢れるほど贅沢な鑑賞のひと時となる。だが表面的な美に終始することなく、登場人物たちの繊細な感情の機微をすくい取って心が震える名作へと昇華している。

アイナーが妻ゲルダに肖像画モデルを頼まれてストッキングとドレスに触れたとき、抑制されていたリリーの目覚めを恍惚と描くのだが、当事者の視線とゲルダの視線が交錯して緊張感を孕む。
このドレスのシーンは冒頭のハイライトであるが、それに至るまでに簡素かつ過不足なく夫婦であるアイナーとゲルダの関係性を映画として見せる監督の手腕は素晴らしいもの。ゲルダの気が強く画家としてプライドが高く、それでいて夫のアイナーに心底惚れている、というのが後々の物語でフックとなる。

ゲルダにゲームは終わりにしましょうと言われても肉体と自我の乖離に耐えられずリリーでいることを日に日に増して強く願うようになる。そんな夫の姿に戸惑うゲルダの情念が凄まじい。リリーという画家にとって必須のミューズを発見したと同時にかつての夫であるアイナーを失う事となる皮肉さは実に歯がゆい。

リリーの周りにいる人物はゲルダのみならずみな紳士で優しく理解があるのがいい。この時代であればもっと不理解であったり無駄に排他的であったかもしれない。ハンスもヘンリクも脇を添えるキャラクターとしてスパイスが効いている。しかし1番はオスカーを獲得したゲルダ役のアリシア・ヴィキャンダー。言葉にならないほど献身的な愛。また愛を超越した関係性や肉体の概念に囚われない精神性への敬意。今よりもっと閉鎖的な時代に彼女たちが生きた事に拍手を送りたい。ラストシーンの空もあっぱれで清々しい思い。
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