かえで

リリーのすべてのかえでのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
3.6
全編を通して絵画のように綺麗な映像が印象的。暗めの雰囲気とあいまってとても美しい映画でした。
内なる本当の自分に気づき、戸惑いながらもだんだんと目覚めてゆく姿がとてもリアル。ストーリーが進むにつれて本当に女性のように見えるエディの演技はさすがです。美しくてたおやかで、女性より女性らしい。

ただ、アイナーの、リリーの葛藤が少なすぎるように感じてしまった。
最初は戸惑いや悩み、妻ゲルダに対して罪悪感を抱くような描写こそあったものの、自分はリリーであると開ききってからは、どうしても傲慢で自分勝手な印象を受けてしまった。確かに、それが彼女の本来の姿ではあるのだけど、それにしても今まで普通の夫婦として、愛し合い連れ添ってきた妻(しかも今でも夫としての自分を愛している)に対して「いつかは私も結婚したい」だの「あなたの夫はもういない」だの、あまりに酷すぎる。こんなに簡単に割り切れることなんかではないと思う。もっと悩んで、苦しんで、葛藤して欲しかった。自分自身の性についても、妻との向き合い方についても。自分の本来の姿に気づいたからといって、今まで男性として生きてきた数十年間を容易く切り捨てられはしないと思う。性同一性障害、というよりは二重人格のような印象を受けてしまった。

精神的にも肉体的にも満足できず、時に戸惑い傷つきながらも最後までリリーに尽くす妻ゲルダの愛は本当に素晴らしかったけど、それと同時に不憫でならなかった。もし自分がゲルダの立場だったとしたら、きっかけを与えてしまった自分を一生責め続けてしまうと思う。

映像美、雰囲気、そして何より主演2人の演技が本当に素晴らしかっただけに、リリーのキャラクターをどうしても残念に感じてしまった。
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