開明獣

ゴッホ 真実の手紙の開明獣のレビュー・感想・評価

ゴッホ 真実の手紙(2010年製作の映画)
5.0
英国国営放送、BBCが制作したヴィンセント・ヴァン・ゴッホに関する極めて質の高いドキュメンタリー。

ゴッホを愛する人は多く、作家の原田マハ氏もその1人。同氏はゴッホを題材にした優れた小説を2作、「たゆたえども沈まず」と「リヴァルバー」を著しているが、併せて読むと尚一層ゴッホへの理解が深まることだろう。

好きな画家は沢山いて、印象派なら、アルフレッド・シスレー、ベルテ・モリゾー、カミーユ・ピサロ、フォービズムのラウル・デュッフイー、表現主義のフランツ・マルク、エルンスト・キルヒナー、シュールレアリズムなら、レオノーラ・キャリントン、レメディオス・バロ、フリーダ・カーロ、ポスト印象派なら、ゴーギャン、セザンヌ、その他、キース・ヴァン・ドンゲン、フェルナンド・ボテロ、ベルナール・ビュフェ、ゲルハルト・リヒターなどなど枚挙にいとまがないのだけれど、別格は、ピカソとこのゴッホ。

どの画家も個性豊かで、自分ならではの世界を醸し出しているけれど、この2人は素人考えながら、ちょっと次元が違う気がしている。アムステルダムのゴッホ美術館で、浴びるようにゴッホの作品を大量に堪能したことは自分の人生のハイライトの一つだ。日本でも多くの企画展が開催されるが、必ず足を運ぶようにしている。ちなみに、ゴッホが5回も模写したミレーの「種蒔く人」は、山梨県立美術館で観ることが出来て、開明獣も何度か訪れている。

開明獣は絵の素養は全くないし、美術を本格的に学んだこともないが、時間さえあれば美術館に行って絵を観るのが好きだ。いいなと感じた絵の前で、ひたすらボーッと眺めている時間が何よりの贅沢なのである。その中で、ゴッホの絵を観るのはとてもカロリーを消費する覚悟のいる行為なのである。

本作では、英国の稀代の名優、ベネディクト・カンバーバッチがゴッホを演じているのだが、台詞の殆どがゴッホの書簡集から採られており、ゴッホ自身の言葉で語られていることに意義がある。

ゴッホは大変知的な人であった。英語、仏語、蘭語の3カ国後を自由に操り、シェークスピア、ディケンズ、ゾラなどの文学作品にも積極的に親しんでいた。大変な筆まめで、900通に近い手紙が残っているのだが、際立った文章家でもある。ゴッホの書簡集を読むのは、とても楽しい読者の時間なのである。

ゴッホはよく宇宙を描いたと言われる。その孤高の突き放したような作風とは相反するように、観る人に寄り添うような魅力がある。ゴッホは自らの手紙の結句として、よく"with shake hands"という言葉を添えた。どの作品からも、寂しげな微笑みを浮かべたゴッホが手を差し出している姿が浮かんでくるのは、そのせいかもしれない。
開明獣

開明獣