ヒチ

天の高みへのヒチのネタバレレビュー・内容・結末

天の高みへ(1976年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ヴァチカンの法王に会いに行ったらエレベーターが止まんなくなって400階くらいまで行っちゃう話。かわいそう。その後はエレベーターが上ったり下がったりするので「上る」こと自体に何かメタファーがある訳ではなく、自分たちのコントロールの効かない事象に右往左往されること自体に意味があるんだろう。ずっと室内だけどカメラワークが巧みで、緊張感がまったく緩まないのが良い。

エレベーターに閉じ込められ生命の危機に脅かされるにつれ、登場人物達は次第に狂っていき、聖職者やマルクス主義者という普段被っている仮面を剥ぎ取り本能を剥き出しに暴走する。後半は殺人、乱交、カニバリズム、スカトロとエレベーター内は惨憺たる状況になり、ラジオを通して「キリストを讃えよ」という言葉とともに定期的に流れるキリスト教の教えが室内に空虚に響く。

これだけ見るとキリスト教への皮肉を主とした作品に思えるけど、ラストに死体が散乱し糞尿塗れになり、醜悪な空間になったエレベーター内に光と共に現れる法王?(神の象徴に見える)は彼らを優しく包み込む。まるで宗教は人間の清濁すべてを受け止めて救いだすと言っているような...。「キリスト教」のような組織的な宗教団体は批判するけど、「宗教」自体の力は否定しないということなのか。映画の冒頭にわざわざ出てくる「この映画は宗教の尊さを否定していない」という声明もそういう意図があるのかもしれない。
ヒチ

ヒチ