湯っ子

バビロンの湯っ子のレビュー・感想・評価

バビロン(1980年製作の映画)
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不思議だな、ずっと同じリズムなのに、ウキウキごきげんに響くこともあれば、とんでもなく凶々しく響くこともある。熱量の高い音たち。お腹の底に響くような陶酔をもたらす音があったり、暴力的に耳をつんざく悲鳴のような音があったりした。

怒りや憎しみの連鎖を絶つことの難しさ。主人公のブルーは闘っていた。現実にある理不尽や差別と、そしてなにより自分自身の中にある怒りと闘っていた。彼はけっこう善戦してたと思う、血の気の多い友達をいつでも抑える役割だったし、家を出る時には大事な帽子を弟にあげてたし、たぶん父親が母親にしていたようなことを、自分の恋人にはギリギリのところでがまんした。だけどやっぱり、彼のアイデンティティである音楽を破壊されてまで、怒りや憎しみに勝ち続けるのはキツかった。それは想像に難くない。

正直、近所に夜中に大きな音出して騒いでる若者がいたらそりゃキレる。ついこの前、お隣さんが夜中の3時まで家飲み&家カラオケして大騒ぎしていて、うるさくて寝られなかったことを思い出し、「いやいやそれは君らも悪いっしょ…」とは思った。
だけど、彼らのことを一方的に被害者と描かないところに誠実さを感じた。ここに1980年のリアルがあると思う。イギリスが70年代に経済破綻してたことを今回で知った(無知でスミマセン)けど、そのストレスが移民にぶつけられたらしい。スタジオの近所の白人やブルーの雇い主の白人もまた弱者であることがやるせない。

魂の叫びとも言える本作が上映禁止となった時の彼らの落胆を思うと心が痛む。40年を経て、このリズムが、叫びが世界に届いたことに心が震える。40年封印されてたということを脇に置いといてもすごい映画なんだけど、40年封印されてたという事実込みでこの映画と向き合うべきだと思う。
湯っ子

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