近本光司

喰べた人の近本光司のレビュー・感想・評価

喰べた人(1963年製作の映画)
3.0
昨今の疫病の流行で、あるときわたしは食べるという行為がいかにおぞましいものかと気づかされた。食事中はマスクに覆われた口もとが露わになって、次々と食物が運びこまれ、咀嚼され、体内に取り込まれていく。この一連の行為はきわめてグロテスクである。大林宣彦と藤野一友は、この事実をいかに映像で表現するかと腐心していたように思われる。背広を着た男たちが無表情でくちゃくちゃと一心不乱に食べる。ウェイトレスは虚な目で一部始終を眺め、その気味悪さに耐えられなって気を失い、しまいにはえんえんと包帯を吐きつづける。あるいはこの包帯は食物連鎖の暗喩だろうか。食事を摂りながら観た。喰べる人、ではなく、喰べた人。