櫻

Wの悲劇の櫻のレビュー・感想・評価

Wの悲劇(1984年製作の映画)
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憧れに着られるようにして生きてきた少女が、自分を生きていこうとするまでの過程。演劇は舞台上だけではなく、現在も続いていく日常そのもののことだった。

わたしたちの日常というものは、かならずしも正しさのなかだけで形づくられてはおらず、時に間違えた場所にむかったり、不道徳的だとされる感情のもと行動せずにはいられないことがある。善意だけでは生きられないからこそ、善意のほうをかたく見つめ、悪に簡単に吸い寄せられてしまうからこそ、悪を憎み目を大きくひろげて自らを見失わないようにする。その人がその一瞬を重ねて生きていくことが、他の誰とも違うことであるのは、誰もその人のその命懸けの一瞬を生きることは不可能だからだ。正しくないとされていたのだとしても、その人がその人として生きている以上、その魂の光は消えたりはしない。たとえば悲劇とされてしまう渦中であっても、なおさらその光量は増していくくらいに。

しあわせな終わりは別のはじまりの序章にすぎず、日常はそうして続いていく。心のなかで終了の合図をくだしても、まだまだだと誰かからの声がする。乗りこなすしかなかった数多の日常は、いつかすっかりわたしの色になるだろう。とっておきの舞台の上でさも何事もなかったかのように、魅力的に笑ってやるのだといま決めた。
櫻