寝木裕和

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレターの寝木裕和のレビュー・感想・評価

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ルワンダで人間の残酷さと野蛮さに心底疲弊して絶望したとき、生まれ故郷の渇ききって荒れ果てた大地に植林をすることを思い立つ。

奇跡的に再生した森林はセバスチャン・サルガドの渇ききった心の中にも一筋の希望を与えてくれた。

そんなふうに書くと大自然に救済された芸術家の美しい物語となるのだろうけれど、長く続く旅の中で素晴らしい作品を残してきた彼を支えてきた妻・レリアの苦労も、想像を絶するものだったと思う。そのあたりのことは劇中、少ししか触れられないのだけれど。

つまり人も、植物も、この地球に存在するすべての生き物は、一人では生きていけない。
それなのにどんな生き物もこの世界に生まれくる時と、死にゆく時はたった一人なのだ。

どんなに人間の残忍性に疲れきっても、自然がその与えられた一生以上のことを高望みするでもなく、強欲になるでもなく全うするように、自分は自分の一生を慎ましく全うするべきだと。

そんな声なきメッセージさえ感じられる作品だった。
寝木裕和

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