BON

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレターのBONのレビュー・感想・評価

4.3
報道写真家サルガドのドキュメンタリー。ポートレートは被写体との関係性が写真に表れるものだと思っていたので、過酷な状況を生きる行き当たりばったりの人間を撮影したセンセーショナルな報道写真に神の眼など人間が持てる訳ないと懐疑的に観始めたのですが、生活の一部に死が転がってる中でその瞬間を生きる命と失われるものを映し出す写真から神の不在と慈しみの眼差しを感じたし、心が壊れた絶望の中で枯れた大地に新しい命を紡ぎ、再び前を向いて自然を撮り始めるサルガドの人生そのものを尊敬した。私がミクロの狭い世界でうじうじと生きているとしたらサルガドは地球単位で大きなマクロの世界を見つめている。

本筋とは関係ないけど心の文字を学び、言語なしで愛の言葉を家族が理解していくというダウン症の次男のくだりは翻訳された言葉の表現が美しくて泣きそうになった。

サルガドの生き様を通してサルガドに似通ったヴェンダースの姿勢が見えてくる。光を描く人の冒頭の説明はいかにもヴェンダースらしいし、全編に温もりを感じる。

いつも鬱々としている中そろそろ本当に前向きに生きていきようかと少し励まされた気持ちになった。私はサルガドのような大きく遠い場所でなくてもいいから、好きな場所を見つけて光と影で世界を描き続けたい。
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