Pigspearls

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレターのPigspearlsのレビュー・感想・評価

5.0
ぶわぁーっと感情が溢れてくるのに、言葉にするとぜんぶ蛇足な気がする。自分メモ。


真摯に生きるひと。誰もなし得なかった方法で、世界の意味を問うひと。健康な体に品性と知性を宿し自分の武器を正しく構えて生きてゆけるひと。その人への愛をフィルムに焼き付けること。これらすべてが自分にとって、映画を好きでいられる理由なのでとにかく全部ツボ。pinaほど万人向けではないけど、都市とモードのヴィデオノートほど私的でもない。映画としての評価は分かれそう。でも私はヴェンダースが、この監督に心動かされることが、やっぱり大好きだ。

辺境の地に生まれて知性をと正しい力を身につけた人間は最強だ、とつねづね思うのだけど、サルガドはまさにブラジルの田舎の農家で生まれた現代のヒーローだ。日本人からしたら、たぶんドラクエの主人公くらい、現実離れしてる強さ。だから、一緒に戦うことに憧れる。父の背中を追ってフィルムを回す、サルガドの息子のように。

ファンとしては、写真家と、その息子と、ヴェンダースの、3人のコラボレーションに、心打たれないはずはなく。

フォトグラファーとは何者か?ギリシア語では、光で世界を描き出す人。そんなヴェンダースのナレーションではじまり。

暗室のような狭い空間。ブラジルの金鉱の写真ごしに、サルガド自身が映し出され。

空撮でクレーンが写り込んだところで、あ、久々のヴェンダースだ、と懐かしい気持ちになり。

サルガドが写真家としていちばん名を馳せた時代、難民キャンプや湾岸戦争の写真を本人が語る。ときどき時代が過去や現代に、主語が息子に入れ変わり、凄惨な写真に現実が繋がる。うまい。

そしてこちらが想像しなかった形で、故郷へと還ってゆく。

Bunkamura初日。長いような短いような不思議な映像写真体験。一緒に観たオットはときどき寝てた。寝てもいいからみんなに観てほしい。そういう映画。