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シネマ歌舞伎 三人吉三のtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

シネマ歌舞伎 三人吉三(2015年製作の映画)
4.1
これ生で観たかったなあ……真っ白の紙吹雪を被りたかった。

河竹黙阿弥さん、なんという業の深い物語を……、
テーマは『親の因果が子に報う』という因縁因業、因果応報の話。

強盗(悪党)を主人公にした『白波物』『世話物』で、
客の若い手代十三郎(坂東新悟)が落とした百両を夜鷹のおとせ(中村鶴松)が拾い、それを女装の盗賊・お嬢吉三(中村七之助)が奪い、それを見ていた別の盗賊・お坊吉三(尾上松也)が現れ奪おうと争いになるが、そこに盗賊・和尚吉三(中村勘九郎)が仲裁に入る。
和尚吉三の漢気に感服した2人は義兄弟の契りを交す。

この3人の吉三の盗賊を中心に、盗んだ百両と名刀・庚申丸の因縁が絡みどろどろな人間関係と巡り巡る業が描かれるのですが、これがまたもう……。

「父っさん、悪いことは出来ねぇもんだねぇ」

これ和尚吉三とその親父様が、それぞれつぶやくのですが、いや本当にね……これはぐっときました。

ちなみに厄払いと言われる有名な台詞
「こいつぁ春から、縁起がいいわえ」
は、この作品が出典ですが、お嬢三吉がおとせを河に蹴り込んだあげく百両を手にし、節分の鬼払いの声を聞いて言う台詞。
めでたいことはめでたいですが、わははははは………悪党ですな。

このお嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三、巡り巡って悪行のツケが回ってくる。

誤って義兄弟(和尚吉三)の父親を殺害してしまったお坊吉三は「生きてたって喰い詰めるこの身、ここで死んでも悔いはねぇ」と贖罪から切腹する寸前に、全てを立ち聞きしていたお嬢吉三が現れ、
「会いたかった……、死ぬなら一緒に……」
と告白される。
この2人が直接に相対する場面は、序盤の斬り合い~義兄弟の杯まででその間にどういうつきあいがあったのかは描かれ無いのですが、プラトニックな兄分というか念者っぽい感情を持っていたっぽい含み。
それに応えてお坊吉三も
「お嬢……、お前様にも会いたかったぜ」
と応える。

この時の場面が、
お坊吉三がお嬢吉三を抱き寄せるんですよ……、で、お嬢吉三が肩にそっと頭を寄せて、お坊吉三の上腕の辺りをきゅっと握りしめる。
この仕草に込められた情感に、泣くかと思いました(いや泣いたw)


で、2人一緒に果てようという瞬間に、和尚吉三が現れる。
首には血糊、手には男女の首を持って。

知らずとはいえ畜生道に堕ちたある二人への情けと共に義兄弟への「生きてくれ」という手前勝手な願い。

しかし悪行はバレて追っ手が掛る。

ラストの本郷火の見櫓の場は、圧巻でした。
嵐のような白い紙吹雪、雪崩のように一瞬を覆い尽くす白。
3人が「最早これまで」と刺し違え倒れる場面の美しさ。
義兄弟の契りの深さ、情け。

みんな悪党なのになあ……と、分かっちゃいるけど涙腺が。

本当にいいものを観ました。