3人だから、生きられた—— 木屋の手代十三郎は店の金百両を預かった道すがら、夜鷹のおとせに声をかけられる。 一目見てお互いに惹かれあい、二人は枕を交わすのだが、十三郎は宿に百両を忘れてしまう。 翌日、金を届けようとやってきたおとせは大川端庚申塚まで来たところで振袖姿の娘に道を聞かれ、案内してやることに。 しかし大金を持つと知ると、娘は突如正体をあらわし金を奪っておとせを川へ突き落してしまう。 この振袖姿の娘は実は男で、お嬢吉三という盗人だったのだ。 さらにお嬢吉三は通りかかった男の持っていた庚申丸という名刀を巻き上げる。 そこに一部始終を見ていた浪人風の男が、盗んだ百両をよこせと言ってきた。 この男も同様に盗人で、名をお坊吉三といった。刀を抜いて争っていると、止めが入った。 盗賊の和尚吉三という男だった。 同じ名を持つ三人が出会ったのも何かの縁と兄弟の契りを結び、百両は兄貴分の和尚が預かることになった。 夜鷹宿の主人土左衛門伝吉の息子は和尚吉三。そしてお嬢に金を盗られたおとせが、その妹。 しかも宿で遊んで金を忘れた客の十三郎とその相手のおとせは、当人たちは知らないが双子なのだった。 百両の金は何人もの手を巡ってお坊吉三のもとへ。庚申丸はお嬢の手もとに。 盗みの罪で二人に追手がかかったのを知った和尚は、双子とも知らず恋の畜生道に落ちている十三郎とおとせの首を刎ね、 お嬢とお坊の首の代わりにしようとする。 三人吉三への捜索が厳しくなり、江戸中の木戸が閉められている。 和尚は捕えられ、身をひそめていたお坊とお嬢は逃げのびていた。 二人は和尚を救おうと、木戸を開けるために、打つことを禁じられた櫓太鼓を打ち鳴らす。 ついに木戸が開き、和尚が駆けつけるが、 やがて追手に囲まれた三人の吉三は、もはや是までと互いに刺し違えて果てるのであった。
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