ゑぎ

ホワイト・マテリアルのゑぎのレビュー・感想・評価

ホワイト・マテリアル(2009年製作の映画)
4.0
 舞台は内乱が勃発したフランス領のアフリカの国(コートジボワールがモデルらしい)。冒頭、黄色い犬が何匹も道を横切る。痩せた犬なので実はチーターかと思った。犬であることは、劇中で何度か言及されるので察しがついて来る。しかし、これはある種のシンボルだろう。主人公はコーヒー農場の管理者-イザベル・ユペール-マリア。彼女の息子(20歳ぐらいの青年)-マニュエル-ニコラ・デュボシェルが、急にトラックの荷台から姿を消す場面でも、道路横の灌木の中に、犬が現れるのだ。

 本作は尋常じゃなく時間が錯綜する、フラッシュバックとフラッシュフォワードが多用される映画だ。多分、数日あるいは一週間ぐらいの出来事がバラバラに並べ替えられている。バスに乗っているユペールが回想し、フラッシュバックとして挿入される部分なんかは分りやすいけれど、例えば、政府軍がやっきになって捜しているボクサーと呼ばれる反乱軍の英雄-イザック・ド・バンコレについては、最初は瀕死の状態(死体なのか?)として登場し、次に出てきたときには動いていたりするので、面食らってしまうのだ。このように、説明的な科白や描写は廃されている。

 それと、本作はとても怖い映画だ。ドゥニがときおり見せる茶目っ気みたいなものは一切無い。武器を持ち、嬉々として行動する反乱軍の少年兵たち。唐突な発砲。静かに喉を掻き切る描写。最も怖いと思ったのは、マニュエルが池で泳いでいる際に、少年2人から槍で狙われる場面か。こゝは、マニュエルの父(マリア-ユペールの元夫)-クリストフ・ランベールが助けてくれる。しかし、次の場面で、2人の少年はマニュエルを静かに襲うのだ。

 また、内乱が始まり、フランス軍(行政官?)から退去勧告が出ている状況で、ユペールはコーヒー豆の収穫にこだわり、農場に残り続けようとするのだが、今までは近所の子供たちと思って接していた現地の子らが、急に道路を封鎖し、ユペールに金を払わないと通さない、と銃を突きつけて来る、と云った価値の転倒の描写も怖い。それは、逆に云うと、ユペールたちがいかに思い上がっていたか、ということでもある。あるいは、赤と黒のコーヒー豆を沢山集めて選別している場所に、唐突に羊の頭部が投げ込まれる場面の恐怖。

 そして、ユペールの農場に集まった反乱軍の少年兵たちを、政府軍が殲滅していく場面が、決して派手な銃撃戦などを描くことなく、少年兵たちが眠っている間に、静かに静かに遂行されるというのもポイントだう。ユペールの農場が燃やされるのは、序盤早くにフラッシュフォワードで見せられている。この後のユペールの錯乱の描写は、私はやり過ぎにも思えるが、しかし、ショッキングだ。エピローグ(逃げた反乱軍の兵士の場面)で、ドゥニの立場がはっきり表明されるが、決して希望が描かれているワケでは無く、これからも終わらない暴力と殺戮が示唆されているのだと思う。
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