Asino

ホワイト・マテリアルのAsinoのレビュー・感想・評価

ホワイト・マテリアル(2009年製作の映画)
4.0
クレール・ドゥニ特集で。
内戦が起きフランス軍が撤退し、混乱が深まるアフリカのある地域(コートジボワールで起きたことを想定しているが、ぼかされている)で、イザベル・ユペール演じる主人公は、収穫前のコーヒー農園から離れることを拒否する。

砂埃舞うなか、彼女は農園から村へ、学校へそして元夫の家へ行きつ戻りつし続けるけれど、同時に時間軸も激しく前後し、最初の混乱はやがて冒頭の場面で見たものの理解に繋がり、震え上がることになる。
怖いのは、直接的な暴力より、くり返し呼び掛けるラジオの声と、それが途中で代わり、やがて止まること。じりじりと距離を詰めてくる少年兵たちの冷たい目。死の軽さ。
でも誰もイデオロギーを語るわけではない。あの子達はただ飢えていて、むさぼり食べていた薬がなにか知らず、死ぬ前にはじめて、お菓子をお腹いっぱい食べたのだろうと思える点。

マリアは「ずっとここで暮らしてきたし、知り合いばかりだから大丈夫」と繰り返すけれど、状況が見えてないことは明らかで、もちろん最後にそれがはっきりと示される。
狂気に駆られたように見えた彼女の息子こそ、土地も人々も搾取してきた、自分たちの立場をちゃんとわかっていたのではないか。

ホワイトマテリアル、とは「白人の持ち物」
彼女が何気なくはずしたネックレスや脱いだ服は、反乱軍の少女たちのものになるけれど、「帰る場所はない」と繰り返すマリアが本当にこの地で持っていたものなどなにもなかったのだ、というのが帰結なのか。
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