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ヒメアノ〜ルのjonajonaのネタバレレビュー・内容・結末

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

映画館で観て心えぐられた一作。
二度と見たくないですが、観なければいけない映画だと個人的に感じました。

コメディホラー映画ではなくて、
コメディ映画とホラー映画。

二人の、社会的弱者という立場は似てるものの対照的な主人公が、ジャンルも異なる別の物語を生きている。学生時代の同級生だった二人は大人になって再会するが、その出会いから、じわじわと明るい『一般的な』世界を生きる岡田(濱田岳)の人生を、虚無を抱えて人殺しを続ける森田(森田剛…!)のどこまでも深い闇のような暗い色が蝕んでいく。ある意味、人生のあり方そのものだと思います。

前半のコメディ展開ももちろん楽しいが、後半あるシーンから『始まります』という宣言を突きつけられるところで身震いしました。こわすぎる。殺しのシーンが近年邦画の中で突出して容赦無く、心底恐ろしいし気持ち悪い。森田剛さんの怪演が本当に素晴らしいです。心の底からすべてどうでもいいと思っていそうな…からっぽ感。

居酒屋で濱田岳と話すシーンの『さっき話したことなのに、正反対のバレバレな嘘をつく』さまは本当に薄気味悪い。会話に意味を感じていない人間ができることだし、彼はそれが嘘ということにも気付いていない。

ただ、だからと言って森田は一方的な『狂人』なのかというとそうではなく、学生時代の過酷ないじめが背景にあります。
暴力や辱めで歪んでいった彼の心は孤独が拍車をかけて、すでに誰にも届かない場所にある。それをもって彼の犯行の一端でも許すべきとは全く思いませんが、そもそも彼を孤独に追いやって歪めた世界は正しいのか?という思いもどうしても捨てきれない。
どこかのタイミングで誰かが彼を救えなかったの?なんでなんで…と。
主人公も彼の友人だったのに、そんな歪んだ世界に加担した過去が浮き彫りになり、いよいよ物語は終着に向かいます。

たまに、虐められた経験の無い人や軽いいじめを努力でもって克服できた有能な人が『虐められる方にも責任がある』と言います。でも幼い頃からずっと不思議なのはそもそもなんで虐めるんだろう?という至ってシンプルな疑問です。

以下、個人的な話が多分に盛り込まれていて、長いしイジメに関することです。ご了承くださいm(._.)m

僕は中高一貫の学校に通い、6年間学友たちと過ごしてきました。それなりに品が良い学校という評判でしたが、不思議なもので中学時代は中々過激ないじめが横行してました。この映画ほどのことは当時聴き及びませんでしたが、十分問題になっておかしくないことがたくさん。そういうものに首を突っ込み僕も軽いイジメにあう期間がありましたが、相当身にこたえました。
悩んで退学する友人もいました。

それがどういうわけか、高校では皆、角が取れたように丸くなって和気藹々としてくるのです。三年も経つと、友人を痛ぶるという遊びに飽きたように…。僕はそれを歓迎しました。『あぁ、よかった。終わった。皆大人になったんだ』と思ったんですが、大学、そして今に至るまで時間が経つにつれ、その間違いに気付かれました。
心の傷は時間でも簡単に消えないし、曲げられた道は一人では中々戻れなかったりするのかもしれません。
退学したり、性格を変えられたりした友人達はその後も苦しむ。これは家庭内暴力とも似た話です。いろんな説があるかと思いますが、近しい人や歴史から知る限り暴力は人を変える。本当にあの狂ったような時期はなんだったんだろうと悲しくなります。

そしてこちら側の問題もこの映画は突きつけてきます。僕はたまに当時の友人と会うと『お前もあの頃はたまに知らん顔してたけどな』と言われます。しかし記憶がない、それを僕は忘れてしまってるんです。一度傍観者を決め込んだ側の意識は問題を消去します。僕もその頃自分のことで手一杯だったという意識だけが残り、人の問題は二の次。

長く書きすぎて何が書きたいかほんとわからなくなりましたが、要は『なんであの時ああできなかったんだろう』です。
この映画を見ながら、身近な人を思い浮かべて結末まで見送ると本当に辛くなりました。人を孤独にしないのはとても難しいけど、なるだけこの気持ちを忘れずに、せめて友人とは繋がっていたいです。

追記・ムロツヨシさんの役所がとても映画全体の救いなような気がしました。彼は境遇的には主人公の岡田以上に森田と近い状態にあります。でも岡田の友人であり、正直手ひどい裏切りにあっても人としての一線は超えない。
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