YokoGoto

サウスポーのYokoGotoのレビュー・感想・評価

サウスポー(2015年製作の映画)
4.0
Filmarks試写会で鑑賞。アントワーン・フークア監督の最新作。過去作『トレーニング・デイ』も最高の作品ですが、やはりこの監督はセンスがあるんだなと実感。4つのChapterでレビューします。ボクシング映画ですが、女性にもおすすめの作品になってます。


ー『サウスポー』というタイトルの意味ー

情動と抑制。
人間として生きていくうえで、私たちはいつもこれらのコントロールを求められる。なのにいつも、情動は人間を支配し、その愚かさをあざ笑う。

映画のタイトル『サウスポー』とは、栄光から崩れ落ちた主人公(ホープ)の己(おのれ)であり、彼が乗り越えなければならない自分自身の魂。

そして、主人公の己との闘は、すべての苦悩を乗り越えるための、唯一の方法であると物語る。恐らく、人間なら誰でも身に着けていなかればならないガード(守り)であり、それを十分に身につけることは容易いことでは無いことも、私たちは知っている。

テーマである『サウスポー』の置き場所がとても渋い。


ーまたも、ジェイク・ギレンホールの怪演とボクシングシーンのリアリティー

本作は、ジェイク・ギレンホールが、数ヶ月にわたってボクサーの体づくりから始めた懇親の作品。


決して、恵まれた生い立ちではなかった無敗のチャンプ(主人公)が、とある事件で妻を失い堕落していまう物語。

多くのボクシング映画がある中、元ボクサーである、この監督のボクシング描写は、突出したリアリティに溢れている。

しかも、主人公(ホープ役)のジェイクはノースタント!すごすぎる。

ライトヘビー級のボクサーなので、パンチがそこそこ重いのだ。

ボクシングの試合をLIVEで何度か見たことあるが、実際に目でみるパンチの音とか重さとかに感じるリアリティが、そのまま表現されていて尋常じゃないと思った。

テレビや映画で表現されるパンチの当たる音や、クリーンヒットするシーンは、どこか造り物の臭いがしてしまうが、本作は、相当リアリティを追求している。本物の音と重量を感じる。とにかく、ここが素晴らしかった。

さらに言えば、ボクシングの試合のシーンの迫力以上に、トレーニングシーンがかっこよい。スパーリングのシーンやガードを強化するトレーニングシーン。パンチングボールのシーンなど、トレーニングの美学がそのまま表現されている。ボクサーのカッコよさはトレーニングシーンにあるといっても過言ではないのだ。(パンチングボールって素人はほとんど打てないんですよね?難しくて)

ボクサーであった監督でしか表現できないカットなんだろう。この映画観ると、ボクサーって渋いなぁ…と再認識してしまう人も多数だろう。


ーあわせて、レイチェル・マクアダムスの存在感の厚さー

ただ、本作はボクシング映画といいながらも、家族愛をテーマにしたヒューマンである。特に、この本筋で重要だったのが妻役のレイチェル・マクアダムス。そして彼女もまた、存在感がすごかった。

出演時間にしたら、わずか15〜20分(もっと少ないか?)なのに、120分間の映画全編にわたって、妻の存在感が息づいている。一切の回想シーンをもりこまず、前半の出演シーンですべてを語る。


それを成し遂げたのは、冒頭の数カットで、妻と主人公、そして娘との関係を生い立ちの表現も含め、完璧に表現した監督のセンスだろう。ここが短いながらも丁寧だったように感じる。感銘をうけた。

無敗のチャンプの弱点を最後まで知っていた妻。妻の愛情だけが、死んでもなお、孤独なボクサーを最後まで見捨てないのである。ここに感動….(涙)

そういえば、レイチェル・マクアダムスは、その役どころから、従来の彼女の上品さや可愛らしさを消して、微かに品の無さを醸し出していたと思う。よく伝わってきた。

ーエミネムの楽曲ー

楽曲としてエミネムの曲が使われているが、映画の本筋もエミネムの半生をなぞっているのだそうだ。主人公がフードを被ってるシーンが数カット含まれているが、これはエミネムの人生のオマージュ(この表現あってるか?)なのかな?と感じた。


ーまとめー

監督の過去作『トレーニング・デイ』でも盛り込まれていた、ダウンタウンのドラッグにまみれた貧困層の現状。アメリカの華やかなネオンの中に埋もれる彼らの吐息。

そこから這い上がってもなお、逃げられない人間の心の弱さ。

『暴力的』だとされるボクシングは、どんなスポーツよりも研ぎ澄まされた人間の本質を磨き上げる、スマートなスポーツであることを実感し、そのかっこよさに痺れてしまう。

誰よりも強いパンチを生み出すボクサーの拳。
それでも、ボクシンググローブは1人でははめられない。
YokoGoto

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