くりふ

マドラス・カフェのくりふのレビュー・感想・評価

マドラス・カフェ(2013年製作の映画)
4.0
【立ち位置によって真実の見え方は変わる】

Netflixにて。先日『ブラック・フライデー』を見た流れから再見。スリランカ内戦を追ったコチラも10年近く前の作品ですが、緊迫感が途切れず、とにかく巧さが光ります。

元々、スリランカの民族対立は、英国植民地の時代、タミル人とシンハラ人とで分割統治を行い、タミル人を優遇したことが始まりらしい。…ココでもか!ロクでもねえなイギリス。

で、スリランカ独立後の50年代、政府は今度、シンハラ人優遇政策を行うようになり、反発したタミル人の武装組織が肥大化し、内戦となり、難民がインドに押し寄せて…困ったインドが軍事介入する、という流れですがインドは失敗、撤退する。…ま、脇役なんですよね。

スリランカの内戦を解決するのが本筋の筈ですが、それを強引に、自国主体の物語に仕立てちゃうのが、インド映画の力技。まあ、当時は難民問題だけでなく、選挙に向けた点数稼ぎをしたい、政権の目論見も大きかったようですが。

前半は、スリランカの反政府勢力LTF解体への隠密作戦すったもんだ。後半は、その結果飛び火したインドでの、ヤバい火消しすったもんだ。130分サクサク進み、長さは感じない。

まず内戦描写に手抜きを感じずスゴイ。効率的に撮っているようですが。あと頭上のヘリね。あの禍々しさ。改めて『地獄の黙示録』が打ち込んだ楔は強烈だ…と思ったり。

骨格は諜報戦だから、個人への負担がメチャ重い。それが人間ドラマの重みに直結する。主演ジョン・エイブラハムは、上目遣いで探る眼差しがいいです。他、登場人物はおっさん祭りですが、皆、的確な人間駒を演じて巧い。“モグラ”役の崖っぷち感など感心しちゃった。

むさい中で咲く、美人すぎる英国人記者も、美人すぎすぎない程良さでまあ、嵌っていた。彼女も重要な駒となりますね。ナルギス・ファクリさんて、インド人の中では少し浮いた感じがしますが、パキスタンとチェコのハーフであるアメリカ人、なんですね。

“黒幕”設定含め、結末から逆算して仕立てた構成のおかげなのか、何も解決しないのに、奇妙な着地感があります。映画では主役でも、現実ではインドが脇役であることを、作り手が腹に据えていたからか。最後の“屍累々レポート”には次への希望が、一匙ありそうですが。

現実の反政府勢力LTTEが解体済みってことも影響あるか。実現したのはスリランカ軍、協力したノルウェー、そして中国、パキスタンで、インドは仲間外れだったようだけど(涙)。

まあ、困ったのはインドだけではなく、難民問題は諸外国にも飛び火したわけですが。例えば『ディーパンの闘い』などは、その影響を描いた良作のひとつですね。

あと個人的に、ここで描かれた“黒幕”は、『アイアンマン』を見た時、トニー・スタークが真っ先に闘うべき相手だろ!と思ったことを、思い出した。MCUに興味を持てなくなったのは、現実逃避して(笑)ウチュージンに向かったコトが、大きかったのでありました。

<2022.11.21記>
くりふ

くりふ