イスケ

ウイークエンドのイスケのネタバレレビュー・内容・結末

ウイークエンド(1967年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

ゴダール作品の難解さって、そのほとんどは哲学的で抽象的な会話にあると思ってるんですよね。

そう考えると、本作はエンゲルスの社会思想の説明を筆頭に、かなり具体的に語られていて、ゴダールの中ではそうとう掴みやすく感じた。思想教育のビデオみたい。


ほんの少しだけしかパンを分け与えてやらないことを「アメリカ全体の予算とコンゴへの支援金」と例えたり、
アルジェリアで行われているケツの蹴り上げをやってみせたりするシーン。

また、後半に活動家たちに捉えられる際、「美人と人並みは脇へ」と言い、見た目によって階級が生まれるシーン。

このあたりは、比喩なんだけど直接的な表現に近いので分かりやすい。

そして、ゴダールが資本主義を嫌う理由は、階級が生まれて人間に優劣ができることなんだろうという想像が働いてくる。

デュラン夫妻は、活動家に対し、「金はある」と赦しを乞うのだけど、そもそもこの集団は「金で物事が解決される不平等性」を嫌っているのだろう。鮮やかに逆効果な言葉をチョイスしてしまったものだわ。



度肝を抜かれるのは、官能トークと渋滞だけで冒頭20分以上の尺を使うというねw
どうせ、割り込み当たり前みたいなモラルしか持ち合わせてないのだから、さっさとそっちの道をすっ飛ばしていけばいいのに。

渋滞の長回しが群を抜いて最高すぎたんだけど、どこを切り取っても凄い世界観。
しょっぱなから、隣人の車に激突して言い争い。銃でバンバン撃ってくるとか酷いもんだ。

資本主義と、それに端を発した個人主義による欲求の成れの果て。マルクス主義の反対側。
「ちょっと大袈裟にはしてみましたけど、これが帝国主義のアメリカ様のリアルな姿ですよ」と言わんばかり。

本来は娯楽活動に勤しむはずの週末に訪れるディストピアは、僕らから見れば寓話にしか見えないのだけど、
五月革命前夜の空気感を感じていたゴダールや、毛沢東フォロワーなどには、現実的なものとして響いていたんだろうな。


ブルジョワ vs トラクターを侮辱されるのだけは許せないおじさんもニヤけた。
自分自身が侮辱されるのはまだ良い、トラクターのことだけは言ってくれるなという雰囲気w

それもやっぱり資本主義において、自分自身よりも商売道具の方が格が上みたいな本末転倒の可笑しみがあったし、ヘンテコなシーンだけど面白くて謎の納得感もあるのよ。


車が大破炎上してしまっても「私のエルメスのバックがー!」と叫び、人が死んでる車を見ても「素敵なジーンズ!」と言う。
道中で車強盗に遭い、「なんでも望みを叶えてやるとしたら?」と問われても、この期に及んで出てくる言葉は「ベンツ!」「サンローラン!」。

銃を突きつけられている時、普通なら「命が大切」になるはずなのだけど、やはりここでも自分自身という本当に大切なものよりも、派手で華美な欲求に目がくらんでしまっている。


後半で「近道して時間をロスした」という言葉が出てくる。その意味はなんとなく分かる気がした。

金を稼ぐことで様々な自己実現を果たせるけれど、同時に金に惑わされて、本当に自分が求めているものを見失っている。そういうニュアンスのことなんじゃないかしら。


老いたる海。
ドラムと詩と景色の絡まりが最高。
イスケ

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