唯

カンバセーションズの唯のレビュー・感想・評価

カンバセーションズ(2005年製作の映画)
3.8
元恋人同士が、別れているからこそ正直になってぽつぽつと本音を吐露する会話劇。会話劇の醍醐味である、ギリギリのところで保たれる均衡、探り合いの緊張感、他者の介入によって突如乱される調和といった要素が満載。

果たして、時の経過を残酷と思うべきか、愛おしく思うべきか。「もしかしたらあったかもしれない現在」に手を伸ばすことは、「もう二度と取り戻せない過去」の存在を色濃くする。失ってしまった時間に後悔を募らせ、タラレバを積み重ねることになり、夢から醒めれば虚無と絶望と罪悪感とが広がる。それでも、その夢に束の間浸りたいと願うのが人間で。夢さえあれば生きて行けるからだろうか。

二人の会話を覗き見ていると、男と女の違いを感じる。この場合の男は独身で身軽であることもあって、いつまでも若いままでいるけど、抱えるもののある女は簡単にはそれを手放せない。彼女は、立場を弁えていて現実に腰を据えている。

二つの画面でそれぞれ微妙に異なる描写をするのは、私達は常に自分のフィルターを通して世界を眺めていることを示唆する。事実は一つなのに、捉え方や思い出の書き出し方は人それぞれである。

かつての恋人に引き寄せられ一晩だけ過去に引き戻され若さに浸り、翌朝には何事もない顔で家庭に帰って行く。現実だ、すごく。その現実は、幸せでない様であり、幸せでもあるのだ。しらんけど。

時の経過は残酷なだけでない。齢を重ね、経験を積んだからこそわかり合えることがあると信じたい。
唯