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AMY エイミーのmasayaanのレビュー・感想・評価

AMY エイミー(2015年製作の映画)
3.5
アプリの更新を止める直前に観ていたいくつかの映画、その6、かな。古い記録を見返していたら、マーク漏れだったのでせっかくだし追加。 2011年7月23日まで生き、27歳でこの世を去った女の物語。2016年9月18日に映画館で観ているようだ。

以下、盛大に脱線&蛇足。読む必要なし。

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人生でもっとも音楽を精力的に聴いていた季節、つまり僕にとっての本当の、そして唯一の「ディケイド」といえる2006~2015年に、あちこちから必死に読み込んだりダウンロードしたりしていた新譜データ、そして大量にレンタルしていたいわゆる往年の「名盤」系のデータがパンパンに詰まっていた外付けのHDDが、何年か前にぶっ壊れていた。それほど意欲的に音楽を聴かなく(聴けなく)なっていた時期だったので、実害があったかと言えば、それほどでもなかったというのが正直なところだったが、それでもやはり、ショックは大きかった。いやー、やっぱり音楽をデータを含めて物理的に「所有」する時代はマジで終わったんだなーと。

それが、パソコンを買い替えたのを機に、ええい、完全に壊れるならそれまでだ、なんでもやってやるぜとググるがままに出てきたどこぞのユーチューバーおじさんが指南する修復作業を自力でやってみると、なんと、ケロッと直ってしまったではないか。それからは、お見込みの通り、いわゆる本当のネット・トラッシュ系を除いて(RIP...)、ほぼすべてのデータを再度取り込んで、どっぷりとノスタルジーごっこを決めてやった。どこにでもいるただの00年代最高おじさんと化して、やっぱり音楽は物理的に「所有」しないとねー、味わいが違うよねーなんて深夜に呟いていた。

エイミー・ワインハウスは、僕のアーカイブでは、アーティスト名のソートで割と上の方(数えてみたら28番目)に出てくる。ちょっとスクロールすると出てくる『Back To Black』のジャケットに思わず胸が熱くなる。それほど熱心に称賛していた口ではないけれど、未練がましく『Lioness: Hidden Treasures』を買うほどには惚れていたし、おそらく、こういった気持ちには、その後なっていない。音楽を聴く量が減ったといえばそれまでだが、しかし変な話、エイミー・ワインハウスだって熱心に「探して」出会った歌手ではない。すごい才能だったなと思う。

このドキュメンタリー映画を観ていると、まあ、これは寝ぼけた神話まがいな言い方になるけれども、しかるべき才能というものは遅かれ早かれ世界から「発見」されてしまうものなのだろうと、そう思わずにはいられない。記憶が正しければ、デビューに向けて、面接で弾き語りをするときの映像が残っているのだけれど、もう、なんだこれはと。俺が面接の責任者だったらその場でアルバム10枚契約は間違いないと確信しつつ、しかしショックのあまり契約書の準備なんてできないだろう。こういうレベルの才能がこの世に存在し、幸運にもちゃんと音楽を選んで、いま目の前に現れたんだという衝撃。序盤のちょっとしたシーンなんだけど、ものすごい追体験だった。

その後の絵にかいたようなシンデレラ・ストーリーと、そこからの絵にかいたような転落は、あまりによく知られている。自分が、ただ自分として生きることのドラマを彼女は教えてくれた。今になって思えば、『Back To Black』をヒット曲「Rehab」で始めなければならなかったのは、どれほどの屈辱だったことだろう。世界は、確かにエイミーという才能を発見するポップ・カルチャーの仕組みを構築することに成功してはいた。しかし、それは大きくの制限や拘束と引き換えだったのだ。00年代にエイミー・ワインハウスは早すぎた。しかし、SNS時代に登場するのでは遅すぎたとかもしれない。生まれる時代を間違えたと言うしかないのだろうか。

マイ・ベスト・ワンは、誰が何と言おうと「Tears Dry On Their Own」。劇中、エイミーが再起をかけて前に進んでいこうとするシーンで象徴的に使われる。思わず震えた。ああ、アルバム10枚とはいかなかったけれども、せめて何曲かがちゃんと録音されてよかったと。「男が去っていく/そして日は沈む/時間は無駄にしたけど成長した/涙なんて一人でに渇くわ」。そう強がる歌詞とは対照的に、観ているこっちは涙がボロボロと溢れて止まらない。表現と私生活が完全に一致して(させられて)しまう悲劇。そして、「あったかもしれないもう一つの未来」を垣間見せられるようで、二重に悲しくなった。PS、邪道だが「Valerie」(できれば「'68 Version」)も捨てがたい。

https://youtu.be/ojdbDYahiCQ

https://youtu.be/bixuI_GV5I0
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