笹井ヨシキ

バリー・シール/アメリカをはめた男の笹井ヨシキのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

ダグ・リーマン監督最新作ということで鑑賞して参りました。

もう予告編からしてトム・クルーズの魅力が全開で期待していましたが、期待通り超二枚目俳優でありながらどこか胡散臭い、どこか軽薄、そしてどこか弱くもありつつ冒険心は失わない彼のスター性が存分に発揮された作品で面白かったです。

監督のダグ・リーマンは「ボーン・アイデンティティ」や「Mr&Mrs.スミス」など動きの初動カットだけを細かくつなぎ合わせた軽快なアクションのイメージがある人ですが、どの作品にも通底しているのは「スウィンガーズ」など深刻な事態に直面していてもどこか余裕のある楽しさを忘れない映画作りに長けている人で、トム・クルーズとの相性の良さは「オール・ユー・ニード・イズ・キル」で証明済みですよね。

そんなコンビが描くバリー・シールという男は国を裏切った悪人ではなく、退屈な日常よりもより自分の能力を生かせる場所を求めた冒険者としてポップに描かれ、非常に愛着の持てるキャラクターとなっておりとても良かったです。

冒頭、民間の航空会社で働くバリーがわざと機体を揺らし退屈を紛らわすシーンから始まり、CIAで働くシェイファー(ドーナル・グリーソンも負けず劣らず胡散臭いw)にスカウトされ、思い切って冒険する日常に踏み出すという一連のシークエンスは、日常というルーティンに縛られている自分のような凡人には非常にワクワクを喚起させてくれます。

CIAの命令で低空での空撮を試みるバリーが銃撃を受けるシーンもどこか楽しそうだし、メデジン・カルテルがどんどん期待にコカインを積むところはトムのニヤケ面も相まってどこか微笑ましく見えます。

CIAやメデジン・カルテルの無茶をどうにかしてこなしていく達成感と、お金がジャンジャカジャンジャカ入ってくるバブリーな成り上がり人生、家族に秘密にしていたため一時はもめるも金を投げることであっさりと解決する日常はもう楽しすぎるという感じでした。

バリーの上昇志向の根源は「たくさん金を持ちたい」という願望ではなく、あくまで冒険心の欲求充足にあり、ちゃんと家庭を守り良き父親になるように努めているのも好印象で、JBみたいなクズ(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズのボンクラ感が最高w)もちゃんと面倒を見ようとしている姿がとても良かったです。

バリーの住む町に銀行が4軒も立てられていたり、居眠りしている部下を飛行機の翼を当てて起こしたり、フライト中での情事や金がありすぎてマジで困ってるシーンなど、異常すぎて笑えるシーンも満載で飽きさせません。

「シティ・オブ・ゴッド」の撮影監督であるセザール・シャローンを起用した回想形式の語り口も楽しく、その後の展開を考えれば深刻なのにどこか昔を懐かしむようなバリーの表情も印象的でしたね。

最終的には「アメリカにはめられ」、あんなにも得意だった乗り物のエンジンをかける度に命の危険を感じるまで憔悴していくバリーは、トム・クルーズの情けない涙目演技とマッチしていてとても良かったです。

半狂乱の当時のアメリカを皮肉りながら、それでも「確かに楽しかった」ことを忘れない精神が生かされ、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」などに似ていながらもピカレスクロマンの方向に行き過ぎない家族愛も感じられる作品で、万人にオススメできる作品でした!
笹井ヨシキ

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