土屋ノリオ

アイヒマン・ショー/歴史を写した男たちの土屋ノリオのレビュー・感想・評価

4.1
第二次世界大戦終戦後、ヒトラー独裁政権下のナチスドイツによる残虐行為が明らかになるにつれて、アドルフ・アイヒマンが重要な戦犯として浮かび上がる。米軍に捕虜として拘束されるが偽名を使って脱走。アルゼンチンに家族を呼び寄せ、偽名を使い普通の生活を送っていたが、終戦から15年後に逮捕されイスラエルへ移送、エルサレムの法廷で裁かれことになる。ナチスドイツによる大量虐殺の指揮を執っていた男はどんな人物なのかという興味は、この「世紀の裁判」を世界中にテレビ中継しようという計画となり、いかにして判事を納得させるかという冒頭の緊迫感溢れるカットの切り返しにより、一気に物語の中に引き込まれていく。マスメディアは人間ではないモンスターと書き立てるが、世間は想像できない普通の風貌に驚き、アイヒマンは平然と「命令に従っただけ」と罪状を否定し無罪を主張する。証言シーンをモノクロとカラーを交互で繰り返し、過去の映像か現在の映像なのかもわからない程のカット編集で、緊張感を生み出し方は秀逸。ラストのアイヒマンの表情とその存在から、心理学者たちの興味を引き、有名なミルグラム実験(アイヒマンテスト)などで研究が進められることとなる。

戦争がなければアイヒマンはどんな暮らしをしていたのかを考えてしまわずにはいられない作品。

*ミルグラム実験(アイヒマンテスト)
閉鎖的な状況における権威者の指示に従う人間の心理状況を実験。普通の平凡な一般市民がある特定の条件下では冷酷で非人道的な行為を行うことが証明され、アイヒマンの平凡さはこの実験によって心理学的に証明されたと言える。
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