曇天

LION ライオン 25年目のただいまの曇天のレビュー・感想・評価

4.0
先進国の裕福な家庭で不自由なく生きるってのは誰でも憧れることだろうけど、一度、自分の帰属がそこにはないと感じてしまうと落ち着かないものなのかもな。
サルーは兄の仕事について行った際、列車に取り残されて数日移動し続け、行きついた先の孤児院で白人の夫婦に養子に出される。大学の友人に自分が迷子であると明かしてグーグルアースを教えられてから、密かに自分のいた村を探すようになる。
里親もサルーを育てることにしっかりした信条を持っているし、周囲の人も捜索に理解を示している。この問題に関してはずっと主人公一人だけが精神的に病んでいく。はっきり明言はしてないけど、自分だけ裕福に暮らすことへの後ろめたさもあったんだろう。

今作に関しては、事実の話だからとか実際はどうだったかとか細かい所はどうでもよく、かなり受け手の捉え方に委ねられたつくりになってる。描写が曖昧ってことではなく、これ内容がシンプルなだけに展開に余白が多く、主人公の心情を色んなカットを重ねることで表現している。映画では色んな登場人物の視点を切り替えて同時進行することで話の全体像を見せることができるが、今回は主人公の視点にしか立たない。だから、昔離れ離れになった人がそれまでどういう経験をしてきたかは「結果」でしかわからない。それは残酷なんだけどそれが人間本来の視点。そんな残酷さが極致に達した話だった。

あの時迷子にならず村を出ずに一生を過ごした方が幸せだったのか。養子に出るまでに一つのミスで死ぬ可能性もあったんだろうか。色々想像を掻き立てられる。見つからないものを探すのって意外と労力を使う。元いた場所へ帰るというよりサルーが帰属を獲得する話だった。無い人にとっては大変な問題となるアイデンティティーのお話。

1回目は流し見だったが2回目見返したらヤバイ。オーストラリアで友人に驚かれたお母さんの石運びの仕事、その前に拾われたインドの女にも驚かれとる。どんだけ貧困層だったんだ。ラストシーンは泣いてしまった、その後の語りの内容に絶句。そしてインドでは年間8万人の子供が行方不明になるらしい。女性蔑視がひどかったり…やっぱりインドってどこかおかしい。まだ発展途上なのか。そこから、先進国での青春も尊いものなのかもと思えてくる。
まとまらないな。シンプルで抽象的に見えてしまい捉えどころがない、けど興味が尽きない。タイトルは群れからはぐれたライオンの意味もあるなー。しかし本物はあんなモジャモジャじゃなかった。
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