高橋早苗

LION ライオン 25年目のただいまの高橋早苗のレビュー・感想・評価

4.0
言い忘れたことがあると 止まったまま
伝えそびれたことがあると
いつまでも 残ったまま

魚の骨が喉につっかえたみたいに
飲み込めるものも 飲み込めない
ごはんも喉を通らない

何がしたいのかも 分からなくなる


《過去》が《いま》に
成り代わり続ける。というお話。



映画は 幼き日のサルーから始まる。
回想シーン、というよりも
まるでオンタイムみたいな
5歳の子どもが見る世界が 目の前に拡がる


夜の仕事をする兄について行き 見失う
降りられない列車に揺られる

言葉も通じない 見知らぬ土地

親切そうな人が笑ってくれる けど逃げる
頼りは 自らの生存本能だけ



幼いサルーに 安住の地を与えたのは
海を越えた遥か異国の地で
産まない決断をし 養子を迎えると決めた夫婦


優しく 受け止めてくれる家族は
安らぎをくれるけれど

そこには懐かしさはない
砂埃の舞う風もなく 懐かしい匂いもない
聞き慣れてた筈の 兄の声も 母の声も
この頭の中で 反響するだけ


…その昔、兄にねだり「いつか買ってやる」と言われた揚げ菓子を見つけ、口にして
彼は気づくの

今まで名乗っていた出身地コルカタは
故郷ではないと。


ここは 安住の地
大切な家族も恋人もいるけれど
ココロの安住は
ここで暮らすだけじゃ いつまでも得られない


周りからみれば
《過去》と呼ばれる時間が
サルーの中ではずっと
《いま》の顔して居座ってる

だから
見つけなきゃいけなかったのね


兄が 笑って手を振った
あの場所を
ひとり走って帰った
あの道を

懐かしい 家々の間の小道を


帰るから
安らげる場所に帰るから
また出ていける 進んでいける

「ただいま」の挨拶を 聞いているのは
誰よりも わたし自身なのだから。
高橋早苗

高橋早苗