ダイナ

イット・フォローズのダイナのネタバレレビュー・内容・結末

イット・フォローズ(2014年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

低予算ながらアメリカのティーンエイジャー達を虜にしたホラー映画。各所でカーペンター映画のリスペクトの話が挙げられている点、個人的には「ハロウィン」で感じた「遠くに見える棒立ちの人」の不安さを彷彿とさせられました。itは、要は見なくても追っかけてくるテレサ的な。

腕を這う蟻をプールに浸すという、自分もその立場だったらわざわざ土に返すとかしないだろうけど客観的に見させられるとなんとも嫌〜な描写や右足が真反対に折れ曲がった衝撃的な死体。ゾワゾワくる序盤でしたが以降、全体的には派手さ・過激表現こそ抑え目でした。しかしプールやブランコや砂浜庭etcと圧倒されるワンショットが多い辺りは魅力的なポイント。

It自体について書いておくと「触れるのか…」という興味深さでした。超常現象は解明されない内が華ではあるものの、設定がある程度開示されていると攻略・防衛の手を考える楽しさというものを見出したくなります。ルールがあるのであれば、その線引きを見極めれば逆転の目・防衛策を見つけることができます。本作においては攻撃が当たる、仲間も視認はできずとも存在は認知できるという、「手の打ち用」が色々とありそうな設定はかなりワクワクさせられました。これはもうターミネーター2的対処しかないやろなぁ…と思ったんですが、まあ考えたら消滅させたところで新しく出現しそうな気がする。こういう概念は無限湧きでしょうね。(てかボート見つけたところ海に沈める策練ってんのかと)なんならコンクリに固めるとか。復活間隔とか、自由を奪ったらずっとそのままなのかとか、切断したら切り離した部分は空間的に存在するのかとか、検証してみてほしいことがたくさんあります。実体を他人に示すことが難しけれど可能なのであれば研究団体とかに示すとかテレビや公衆の前とかSNSとか拡散するとかあったのではと。(セックスで感染という前提が確固たる事実かあやふやだと拡散はまずいかもしれませんが)そして血が出るという点に輸血パックに使えないかなとも。

砂浜戦闘でぶっ飛ばされる所も好きですが、一番好きなシーンは屋内プール戦。ここの「グダグダ感」が最高に堪らなかったですね。まず舞台のliminal space感が最高ですし主人公達が小道具設置しながら何かの準備を始める所の「どでかい戦闘始めます感」がすげえワクワクさせられます。等間隔に並べられらた家電も戦闘の舞台の装飾品として異彩を放っていて良いです。その後の感電させるどころか家電をプールに投げつけられるわ味方撃っちゃうわの。作戦がバチッと決まってたらそれはそれでB級ホラーとして見応えがあると思うんですが、これはこれで「学生の詰めの甘さ感」というか、色々計画していたものが全く様にならずにパニックでグタグダのグチャグチャになる青さ、文章化すると褒めてるように見えないけどティーン感半端なくて凄い良かったです。さらに好きなのはこの準備段階でこいつらが体育座りしたり寝そべったりプールに手ユラユラさせたり端末いじったりとポケ〜っとしてて、いやこれから死ぬかもしれないってんだから恐怖に震えるだとか奮起して武者震いするとか緊迫しろよ!なーにアンニュイなポーズとってオサレ感出してんだグラビア撮影じゃねーんだぞと言いたくなる斜に構えた青さ含めてティーン感の濃さがハンパない。こんな時期は自分もあったけども命懸かってるのにそんな雨の日の昼休みみたいなダラけ感絶対出せない。

設定を聞いた瞬間「こんなん性病のメタファーじゃないですか〜」とドヤっていたものの監督の意図は性病とは違うという噂が各所で散見されます。そうなるとitの存在は進行を遅らせることのできる病気や怪我、老衰の類に近いですね。確かな死をもたらす概念はたまた死神のような。気づかないだけで誰しもがitにナマケモノスピードで追われてるかもしれません。

it自体の設定の余地に掘り進まない感じにもどかしさを感じるわけですが、it自体よりもitの存在によって揺れる主要メンバー達の心情を描きたかったと睨むと得心がいきます。体の繋がりによって命の危機に晒され、仲間との繋がりによってなんとか心の平穏を保つという皮肉。処女喪失、信頼した男の裏切り、保身のつながりと信頼のつながりを怪奇的な存在を利用して描いた、ホラー成分ありのヒューマンドラマと受け取りました。朝日が登る前の白身がかった世界の空気感が良かったです。まあ単純に「遠くから向かってくるあいつit?」を楽しむのが楽。
ダイナ

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