幽斎

イット・フォローズの幽斎のレビュー・感想・評価

イット・フォローズ(2014年製作の映画)
4.6
2016年はスリラー豊作の年だったが、その幕開けを飾ったのが本作。これを観て思い出したのが1960年公開「光る眼」、得体の知れない不気味さは、21世紀に不条理スリラーへと進化した。この作品は正解を求める方には「最悪」とか言いそうですが、腑に落ちる答えを考察する方には、とてもよい映画。では残された謎を検証します。

「ソレ」の正体は何か?
舞台がアメリカと考えれば、やはり「エイズ」が思い浮かびます。移されたら死を招く点や、それに至る過程で時間が掛かる事。しかし、監督がインタビューで否定しています。では、「死への恐怖」はどうでしょう、余命幾許もないと宣告された患者には、見えなかったものが見えると言われます。しかしSEXの意味が宙に浮きます。

男目線な考えかもしれませんが、それはSEXする事への女性に対する「道義的義務」だと思います。一時の快楽を求めても、その後には「道義的義務」と言う様々な覚悟が伴います。人間の最大の欲求でも有る行為は、相手を思いやる気持ちが無ければ、その後面倒な事(避妊、妊娠、中絶、不倫、痴情の縺れ等)その「道義的義務」から逃げようとする人が現実には多い事への警鐘と考えます。だから行為そのものを観客に見せた上で、原題の「It Follows」なのだと思います。

仮説が正しいとすれば、ラストはハッピーエンドです。ジェイ役のMaika Monroeとポール役のKeir Gilchristは、行為を終えますが、やはり「ソレ」が後を歩いて来る。しかし2人は逃げる事無く満足そうに歩いて行くシーンで幕が降ります。「ソレ」は本当の愛には効力が無い、と解釈します。気持ち良いだけじゃくなく、「真実の愛」がソレに打ち勝つ映画だと。快楽と死が隣り合わせ、これが本作のテーマだと思います。

一緒に観ていた友人は「これってMaika Monroeが美人だから話が続くけど、ブスだったら速攻で終了だろ」←お前なぁ(笑)、因みにセックス版の「リング」と身も蓋も無い事も言ってました。ソレにしても、とても良く出来た設定です。特に「ソレは歩いて追いかけてくる」は秀逸です。友人は「それって北朝鮮に逃げると大丈夫じゃね?」閑話休題。

デトロイトと言う限界都市に生きるティーンエージャーの、折り合いを付けて生きて行く様を、David R.Mitchell監督の「生と死と愛」と言う深いメッセージを込めた新感覚スリラー。この作品がスリラー映画の新たな起点と成ってフォロワーが出て来る事も期待したいですね。
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