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Krugovi(原題)
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『Krugovi(原題)』に投稿された感想・評価

CHEBUNBUN

CHEBUNBUNの感想・評価

4.0
【セルビア、10年もの呪縛をもたらすタバコ】
MUBIで配信終了間際の作品を漁っていたら、面白そうなセルビア映画を見つけた。『Krugovi』は数年前に東京大学の企画で『波紋』という邦題で上映されたことがあるのだそうだ。スルダン・ゴルボヴィッチ監督は昨年発表した『OTAC』で第70回ベルリン国際映画祭パノラマ部門観客賞&エキュメニカル審査員賞を受賞している。セルビア映画界注目の監督であることは間違いありません。そして、『波紋』は素晴らしい作品でした。

セルビア人兵士のマルコはボスニア、トレビニェに帰る。婚約者と会うために。マルコは親友のネボイシャと束の間の憩いを求めてカフェに訪れる。途中で小さなタバコ屋に立ち寄り「ドリナ」という銘柄を買った。その直後、タバコ屋に3人の兵士がやってくる。

「『ドリナ』を寄越せ!」

と横暴な態度で店員に話しかける。しかし、「ドリナ」はマルコが買ってしまった。売り切れだ。そのことにキレる兵士。IDを出せと威嚇し、しまいにはリンチを始める。その様子を見ていたマルコは勇敢にも彼らに立ち向かう。

すると場面はいきなり12年後に飛ぶ。

マルコに助けられた男ハリスはドイツで暮らしていた。自動車メーカーBMWで働き、看護士の妻もいる。子どもも授かり平和に暮らしていた。そこへマルコの婚約者ナダが現れ、夫のDVから助けて欲しいと訴えてくる。

マルコの友人ネボイシャは、医者になっていた。彼は内なる闇と対峙していた。目の前に現れた重症の患者は、トドールだったのだ。そうです、12年後の世界にはマルコはいない。マルコはあの時、殺されたのだトドールの手によって。助けを求める人を救う使命を持ちながらも、目の前にいる宿敵によって迷いが生じてくるのだ。

一方で、マルコの父親も同様のケースに悩まされていた。教会の再建作業をしている彼のもとに、マルコを殺した兵士の息子が働きに来たのだ。

3つの視点から、過去の大惨事が呪いのように10年後の世界に侵食する閉塞感を描いているのだが、言葉に頼らないところに力点が置かれている。10年以上に渡って熟成された痛みというものは人間の身体を蝕むものである。マルコの父親が、加害者の息子たちを追い返す場面。彼は多くは語らない。鋭い眼光で、彼らを拒む。その力強い視線には歴史が見える。また、ネボイシャはリンチにあっている人を助けることもできなければ、果敢に一人兵士に立ち向かい命を落としたマルコにもなることができなかった。その後悔が十字架となり、医者の仕事へ繋がっている。彼には「人を助ける」使命がある。それが最悪な形で揺さぶられる。静かに交わされる加害者との対話に漂う緊迫感と荒廃とした空気が観ている者の観客にまで揺さぶりをかけてくる。そして、マルコに助けられたムスリムの男ハリスは、マルコのお陰で今の平穏がある為危険を冒してナダを救おうとする。

セルビアの美しき陽光とドライなショットを巧みに交えて紡がれる負の連鎖は、東欧の複雑に連鎖する憎悪を象徴しており、またそれは人間の普遍的な感情を捉えていた。