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マスクのotomisanのレビュー・感想・評価

マスク(1984年製作の映画)
4.1
 持ち前の才気を梃子に辛かろうハンデキャップを克服して自身の立場を高め、さらに、困った事あれこれな母親や周囲の荒くれ風バイク団までこころを支え、支えられしてきたロッキーなのに。あれが実話の実話たるところなのか。その最後はシェール母とガー、その相棒ドザー、この元の3人だけなのか。彼が中学生時代に築いた信頼関係と活躍の記憶、そしてなによりローラ嬢はどこに消えてしまったのだろう。
 彼の突然死の唐突さも受け入れがたい事だが、それもまた、ならぬ仲に終わりそうだったローラとの事、遠くに引き取られ一緒の夢を断たれるベンとの事に因る彼のこの世界は生きるに値しないとの悲観の表れの様にも感じられる。若い性急さがその時生きることを諦めて、最期の晩、身体の危機を強固に訴える事を放棄したのなら悔しい限りだ。
 通称「ライオン病」というが、ライオンなら王に違いない。そこが相貌についての厭味とも、当人の人となりへの敬称ともつかない、周囲の人々の明暗相反する感情を伝える。彼について今は何も知らない人もいつかは「ライオン」との言葉に敬意を以て認知するようになるのだろう。そのことを彼の中学時代は伝えている。
 私も40年以上前、それがライオン病であるかは分からないがそんな女性を見かけ一瞥で目を背けたことがある。電車のドア部の斜向かい、5分間の見て見ぬふりである。その間、彼女が私の怯みと一瞬の視線をを気付きませんようにと念じる長い5分だった。二つ目の駅で降りた彼女が何者であったか、再び会うことのなかった彼女が「初めての人は皆そう」と応えてくれていた事を願うばかりだが、これが人間というものだろう。
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