Ricola

アラブの盗賊のRicolaのレビュー・感想・評価

アラブの盗賊(1954年製作の映画)
3.8
千夜一夜物語の「アリババと40人の盗賊」の翻案作品で、壮大なファンタジーコメディ作品。

全編モロッコで撮影されたそうで、その舞台だけで異国情緒溢れる雰囲気は作ることができている。


トリュフォーの批評にあったが、主人公を演じたフェルナンデルをはじめ、出演俳優たちが南仏出身者が多いという。
この映画のカラッとした明るさは、俳優陣の持つ南仏の雰囲気も影響しているのだろう。そして、ベッケルは多少それを見越してキャスティングしたのだろう。

この作品も、ベッケルらしく主題らしい主題がなく、とにかく美しい豪邸やモロッコの情景があたたかな太陽の元でその原色の明るさを解き放っている。

そして今回も、何よりも人物たちが魅力的である。特に主人公アリババ役のフェルナンデルの表情。
コメディアンらしい様々な喜怒哀楽の表情を見せてくれる。驚いた表情から徐々にニヤけた表情になるのなんて、絶妙である。器用で打算的だが人の良いアリババの良いところと悪いところが、彼の表情の変化だけでわかる。

原作の残酷だったり映像化が難しい表現を、うまく上品にアレンジしているのがさすがベッケル。
残酷なはずの壺のシーンも、彼の手にかかればバンド・デシネのタンタンの冒険のワンシーンのような、コミカルで明るいシーンに早変わりである。

戦いのシーンなんて、豪邸の柱を利用した、まさに抜き足さし足忍び足といった時代劇さながらの緊張感が漂う。
しかしそれを静観している者たちの視点のおかげで、場違いな雰囲気にさえなり、笑えてくる。

逃げ回り、豪邸を駆け抜けるシーンで、そこに十分アクション映画としての要素とお茶目さが詰まっていて、さらに美しい豪邸を余すことなく見せてくれるから嬉しい。

大勢の人々が共に歩くシーンにはびっくり。
状況は全く違うが、キートンのセブンチャンスを彷彿とさせる狂気を感じる笑

ちゃんと起承転結のあるストーリーが原作だが、おとぎ話ならではの教訓じみた内容を和らげた、異国情緒とコミカルであっけらかんとした雰囲気の漂う楽しい娯楽作品だった。
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