Hiroki

アンナと過ごした4日間のHirokiのレビュー・感想・評価

アンナと過ごした4日間(2008年製作の映画)
3.8
今年のカンヌも後半から終盤に入ってきてしまいました。はやい...
アウト・オブ・コンペでバズ・ラーマンがトム・ハンクスと共に登場!会場では12分に渡るスタンディングオベーション(通常は6分程度)。バズ・ラーマンが撮ったエルヴィス・プレスリーの伝記映画『Elvis』は7月公開予定なので非常に楽しみです。
コンペの後半戦はデヴィッド・クローネンバーグ『Crimes of the future』の評価が高い。レア・セドゥ&クリステン・ステュワート&ヴィゴ・モーテンセンというレッドカーペットも豪華絢爛。
一方期待していたダルデンヌブラザーズ『Tori et Lokita』はあまり評価が伸びず。3度目となるパルムドールは厳しいかな。

そんな中で圧倒的に批評家の評価が高いのがイエジー・スコリモフスキ『Eo』。
どのくらい高いかというと、ある世界中の批評家が参加している五つ星評価の星取り表では4.04というハイスコアを叩き出して他を圧倒しています。(ちなみに次がクリスティアン・ムンジウの3.71、その次がクローネンバーグの3.44なのでどれだけハイスコアかわかると思います!)
もちろん批評家と審査員は違うので=パルムドールというわけではないのですが。

という事でカンヌコンペ監督予習⑤はポーランドの巨匠イエジー・スコリモフスキ。
スコリモフスキは少し変わった経歴の人物で、元々は脚本家としてデビューしてロマン・ポランスキー『水の中のナイフ』の脚本で一躍有名に。
その後『出発』『早春』などで監督としても評価を受けるが、1991年以降は役者に転向して監督業を封印。
役者から監督(今回のカンヌコンペに参加しているヴァレリア・ブルーニ=テデスキなど)は多いし、監督をやりながら役者をする(グザヴィエ・ドランなど)パターンもあるが、監督からスタートして完全に役者に転向する人はあまり聞いたことが無い。
しかし2008年今作にて17年ぶりに監督業に復活。カンヌでは監督週間のオープニング作品。

内容的には、主人公レオン(アルトゥール・ステランコ)がある事件で出会うアンナ(キンガ・プレイス)を追い続けてついに睡眠薬を盛って夜な夜な部屋に忍び込むというお話。
この話なんか聞いた事あるなーと思ったら、スコリモフスキは日本で実際に起きた事件(男性が夜中に女性の部屋に忍び込んで何もせずにただ数時間女性を見つめていたという事件)を発展させて作ったらしい。
なんだか途中からコントにしか見えなくて、レオン役のアルトゥール・ステランコもMr.ビーンに見えてきちゃうし。
部屋に忍び込むシーンで気づいたら朝まで床で寝ちゃってたり、アンナが起きてきたからベッドの下に潜り込んだり、なんかドリフとかで志村けんやってなかったっけみたいな。

でも本当の主題はもちろんそこではないんでしょうね。
法律的・倫理的な問題は一旦置いておいて、レオンの行いというものが悪なのかどうか?という所ですよね。
スコリモフスキは「物語を進めるにつれ徐々に彼の印象付けをフラットにしていく事によって観客が“彼に申し訳ない”と思うのではないか?」とインタビューで話していたが、個人的には全然思わなかった。
レオンの孤独や悲しみは理解できるけど、でも彼が法廷で言った「愛」というのは理解できなかった。
彼の行動は相手に見返りを求めていないのでそれが愛だと言う人もいると思うけど、私は愛とは常に双方向なものだと考えているので彼の行動はただの自己満足に過ぎないと思ってしまった。(自己愛という意味でならもしかしたら愛なのかもしれないが...)
やはりあそこで家に勝手に入られてマニキュア塗られたり、指輪はめられたりする事の恐怖。しかもアンナは昔レイプされている過去があるからなおさら。
それを想像できないというのは...
最後の壁があまりにも高くそびえ立っているように感じた。

コンペ作『Eo』は1頭のロバが主人公で、サーカスの一員として当てもなく旅をする中で色々な人に出会いながら世界を見つめていくという物語。
84歳にしてスコリモフスキはなんという映画を作ってくるのだろうか。
これまでにない映画体験と絶賛のようなのでこれは何かしら賞には絡んできそうですね!

2022-47
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