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ルンタのアリのレビュー・感想・評価

ルンタ(2015年製作の映画)
3.6
インドで亡命チベット人のサポートを続けている建築家、中原一博さんの案内で、チベットが置かれている苦境を取材した映画です。
大前提としてこのテーマに取り組まれていることへの敬意を感じます。
一人でも多くの方が(私自身も)この映画を通じて、チベットへの注意を保てるようになればと願います。

ただ、映画の作りに対してはごく個人的な印象としてしっくり来ないものがありました。
監督と中原さんは古くからの仲のようすで、そのせいもあるのかカメラが捉えるのは常に中原さん越しの「チベット」です。
後半、実際にチベットの草原を撮し始めるとカメラもチベットの中へ踏み込むようにも見えるのですが、中原さんの方がよりその奥へ近づいていくので、やはり映画としては中原さんを撮っている構図を抜けてこない印象でした。

中原さんの活動を撮る映画ならそれでいいとして、映画は焼身抗議したかたがたのメッセージを紹介し始めてしまいます。
確かに焼身は衝撃的で痛ましいですし、そのメッセージは彼らの文化と深く関わる象徴的なものでしょうが、チベットの苦境はそこだけに集約されるものでないという部分が、全くないわけではなくて少しはちゃんとあるために余計「バランス悪くないかな」と感じられてくるのです。
原因があってこういうことが起こる、とダライラマ14世の言葉も丁寧に紹介されます。まさに、そのとおりなんだけどカメラがその原因から非常に遠くて、結果だけに繰り返しスポットを当てちゃう感じです。

パレスチナが「日常」的に行われる入植や弾圧は注目されずそのことの代償のように空爆の時だけ批判が盛り上がる、という構図にはまっているのと同じく、焼身やデモ弾圧が起きたときにだけ注目されて済んでしまうチベットという構図への危惧は、映画の中の「繰り返されると普通になってしまう」という僧侶の言葉にちゃんと現れています。
弾圧が行われた寺院に中国人観光客がたくさん集まっている皮肉な光景も、せっかく撮ってるのに中原さんが説明してくれただけで終わって、何かこう、カメラは何故そう引いてるの?ってモヤモヤしてしまいました。

もしかしたら「日本人」のチベット問題への距離感を誠実に反映した結果がこうなのかも知れないですね。それなら納得かな。
アリ

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