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マネー・ショート 華麗なる大逆転のTLsのレビュー・感想・評価

4.8
一見、凄腕の投資家たちがウォール街を出し抜くコンゲームもののように見えるが、実際はアメリカの資本主義経済の虚構と如何にして投資家や銀行が国民を食い物にしているかを描いている非常にリアルな作品であった。

今作はアメリカの住宅バブルの崩壊を事前に予期していた一部の投資家たちの物語であるが、ポスターにあるクリスチャン・ベイルをはじめとする4人が協力する話ではなく、それぞれがほとんど独立して動いている。この点が、この映画が決してコンゲームのような作風でないことの根拠となり、このバブル崩壊が絵空事とされてきたことが実感できるものとなっている。というのも、高い債務不履行のリスクなどから明らかに破綻することが予測できることに対してあらゆる人間が見て見ぬふりをする様が描かれている。ほとんど顔を合わせないメインキャラクター達が同じ結果を予測していることからも、このバブル崩壊が現実となることは容易に想像できるのだが形骸化した金融制度の中で「自分さえ良ければよい。」という考え方が蔓延していることに恐怖を覚えた。

この映画は住宅バブル崩壊までを描いている。なので難しい金融用語が沢山使われるが、マーゴット・ロビーなどの有名人を用いるなどして第四の壁を登場人物に突破させるなど、わかりやすい説明を心掛けているのが良かった。さらに、主要人物にオーバーなリアクションを取らせて事態が深刻化していることをわかりやすく伝えることにも成功している。一見、題材としては難しいものではあるが、わかりやすい表現方法と当時のトレンドとして知られるあらゆる物・出来事の画像を挿入しているので私のような当時を知らない人間でも理解できるようになっている。

そして、この映画の主題はアメリカ資本主義経済に対する批判である。多くの人々の生活がかかっているのにも関わらず金融制度を使ってお金を稼ぐことしか考えない人間を痛烈に批判している。作中では若い投資家がバブル崩壊を期待して投資をするシーンをあたかもコンゲームのように描いていたが、それを咎めるブラッド・ピット演じるベテラン投資家の台詞が一番わかりやすい批判であると思う。彼らが数字だと思っているものは実は多くの人々であるというメッセージは心に刺さった。なので、彼らがこのバブル崩壊で莫大な利益を手にするのが、誰も喜ぶシーンがない。

ブラット・ピットは『ジャッキー・コーガン』においてもアメリカの資本主義経済を批判しているが、私が思うに資本主義というよりも人々が持つ偽善を批判している。口では色々とごもっともなことを述べるが、誰一人として家を追い出された人間を気に掛けることはない。『ウォー・マシーン』と同じく誰も教訓を学ばず、今日も彼ら次の崩壊を待つ。
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