グラッデン

マネー・ショート 華麗なる大逆転のグラッデンのレビュー・感想・評価

3.9
2005年、異端の金融トレーダーが住宅ローンを含んだ証券化商品の欠陥性を見抜いたことを契機に「世界経済の破綻」(その後「リーマンショック」と呼ばれる世界的な金融危機)に賭けた男たちの実話に基づく物語。


丁度、金融危機の直後に、会社でWSJを含む米国の金融専門紙に触れる機会が多い部署に配属されたので、CDS等の見慣れぬ専門用語が飛び交う英単語と格闘しながら紙面を読んでいた記憶が蘇ってきました(汗)

『ウォール街』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のように、本作と同様に米国の金融の世界を舞台にした映画は少なくはありません。それは、本作の冒頭でも取り上げられるように、特に1970年代以降の米国の金融業界は巨額のマネーを動かす個人投資家や投資銀行のように、米国における資本主義を映す鏡のような役割を担ってきたからだと私は考えております。また、機会の平等と自由競争の中での成功者(失敗者)が生まれる場所として、現代の「アメリカンドリーム」の舞台としても描かれる点でも、映画の題材に向いていると考えております。

「リーマンショック」に代表される、00年代の金融危機を読み解く重要なキーワードとなるのが、本作でも注目される「証券化商品」と「格付け会社」の2つだと思います。金融工学に代表される高度な金融技術(本作の登場人物たちの多くが数字に強いことを強調していた背景はココに繋がります)で生み出された時限爆弾のような証券化商品を、格付け会社がノーチェックの状態で最高評価を与えて、世の中に出回っていた(もちろん実話)。

スティーブ・カレルが好演したファンドマネージャーのマークが怒り狂ったように、こうした極めて悪質なことが平然と行われていたわけです。ゴードン・ゲッコーが言うところの富の最大化、欲を善とする資本主義のダイナミズムを描くと、必ずと言っていいほど、不正やモラルの問題にぶつかりますが、本作もまた同様の現象が発生しました。

だからこそ、過去の作品群とは異なるアプローチでありながらも、同じような「利益」と「良心の呵責」に揺れ動かされます。物語が進むにつれて、観客の心理は、博打を打った登場人物に感情移入していく中でブラッド・ピッド演じた伝説のトレーダーが語った言葉が印象的でした。彼の言葉は、観客に直接投げかけたものではありませんが、ある意味ではモラルハザードに対する警鐘だったかもしれません。


なお、本作にも登場した西海岸の住宅群ですが、住宅バブル崩壊後の米国で起こった悲惨な状況については『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』においてクローズアップされておりますので、気になった方は是非とも。