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優しい嘘のmaverickのレビュー・感想・評価

優しい嘘(2014年製作の映画)
4.5
2014年の韓国映画。コ・アソン、キム・ヒャンギ、キム・ユジョンの子役出身スターの豪華共演作。主演のキム・ヒエの『101回目のプロポーズ』以来の21年ぶりのスクリーン復帰作でもある。


いじめが題材という非常に重たいテーマでありながら、最後は温かく優しい気持ちに包まれる作品である。家族のそれぞれを思う気持ちに心打たれる。人の命の尊さを深く感じさせる話だ。


いじめの描き方もとても丁寧で、より共感させるように作られている。日常的に起こりがちな人間関係のもつれだが、学園生活においてはそれがどれだけ対象者を傷つけるかを痛感させる。いじめは一人の人間に対しての複数の攻撃によって行われる。行う側は傷つけることに鈍感になるし、受ける側は何倍にも苦痛が増幅される。誰も味方はいないという疎外感が増し、絶望的な気持ちを生んでしまう。やっている側はちょっとした仲間外れのつもりでその影響力の大きさを認識出来ない。だから「それくらいのことで」なんてことが言えるのだ。しっかりと事の経緯を見せることで、いじめが与える影響力を感じ取ることが出来る。作中での落としどころも良かった。いじめの影響力について学ぶには最適な話だ。

いじめを苦に命を絶つ少女を演じるのは『神と共に』シリーズのキム・ヒャンギ。本作で第50回百想芸術大賞の女性新人演技賞を受賞している。彼女が演じるチョンジは純粋で優しい子。だから余計に本作のいじめの描写は心が痛む。彼女の姉を演じるのは『グエムル-漢江の怪物-』のコ・アソン。普段はドライな思春期真っ盛りの女子学生だが、妹の死の真相を追及するために奔走する良き姉の姿が強く印象に残った。いじめの首謀者であるファヨンを演じるのは、ドラマ『雲が描いた月明り』のキム・ユジョン。お金持ちの娘でプライドが高くてという典型的な嫌な役をしたたかに演じる。チョンジが亡くなったことで、逆に今度はファヨンがいじめのターゲットになってしまう。それによって彼女は自分の犯した罪を身をもって痛感することとなる。いじめる役といじめられる役の両方を演じるのは辛かったことだろう。3名とも熱演ぶりが凄かった。子役時代のあどけなさが残る貴重な彼女らの共演作としても本作は価値がある。

子役出身の3名を上手く立て、作品をしっかりとまとめ上げたのは主演のキム・ヒエの力。卓越した演技力と抜群の存在感は流石である。女ひとりで子供二人を育てるたくましい母親の部分と、愛する我が子を失った悲壮感との表現力が素晴らしい。また、この母親本来のコミカルなキャラクターが作品に癒しを与えており、彼女を中心に巻き起こるドタバタ劇にくすりとさせる。こういう肝っ玉母さんを演じられるのも流石だなと。我が子を失ったことはとてつもない悲しみなんだけど、それに押しつぶされないのはもう一人の娘の存在があるからで。苦しみと悲しみの中で、自分を奮い立たせて明るく努めようとする母の姿が涙を誘った。

『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』のチョン・ウヒも出演している。さらに『バーニング 劇場版』のユ・アインがロン毛の浪人生という衝撃的な風貌で登場。このキャラクターには爆笑なんだけど、実はこの役にもちゃんとした意味がある。単なるお遊びで盛り込んだキャラじゃないんだよね。


作品のパッケージがちょっと微妙で鑑賞を躊躇していたのだけど、これは想像したよりも遥かに良作だった。いじめをテーマにした部分はもちろん、家族の大切さを教えられる話でもある。めちゃくちゃ泣けた。キム・ヒエを中心として、コ・アソン、キム・ヒャンギ、キム・ユジョンの3名の魅力を堪能出来る眼福な作品でもあった。良質韓国映画のリスト入りに決定。
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