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たかが世界の終わりの映画を見る猫のレビュー・感想・評価

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
3.6
絶え間ない自己追求。
早熟の天才グザヴィエ・ドランの魅力は、その圧倒的な映像センスに加え、惜しみなくスクリーン上に自己投影を行い続ける愚直さにあるだろう。
だが、そろそろ次の段階に観客を誘ってほしい。これは、期待が過ぎるのか。
『トム・アット・ザ・ファーム』から母に対する蟠りは、彼女の無償の愛を信じることによって昇華されるが、一方で圧倒的な暴力的父性の存在により、自らのアイデンティティは結局のところ否定されてしまう。
この主題を閉塞的な環境下における人間模様の中に描いた作品として『トム・アット・ザ・ファーム』は地味ではあるが、本作よりも手堅くまとまった秀作であると感じる。
ある種のナルシズムに則った自己追求という演出は、既に色々な監督が行なっているがドランは中でも抜群にセンスがいい。
故に今後の作品も期待したいはしたいが、そこに発展はあるのだろうか。
いつか主人公が自己の殻を打ち破り、広く外の世界をその目に映し出す日が来ることを願わずにはいられない。