umisodachi

たかが世界の終わりのumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

たかが世界の終わり(2016年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

死期が近づき、12年ぶりに家族に会いに行く劇作家ルイ。母、兄夫婦、年の離れた妹は歓待するが、なかなかルイは本題を切りだすことができず……。

肝心の事実に一切触れず、腫物に触るような会話ばかりが続くので、分からない/合わないという人も多いのではないかと思う本作。下記は私の解釈だが、正解は分からない。

ルイに対して(病気に対する)生理的な恐怖と、直感的な共感を同時に抱く兄嫁。ルイに純粋な親しみと羨望の眼差しを向けるものの、期待していた反応を得られず戸惑う妹。長く家を開けていた次男のルイに亡き夫の面影を見ていて、家長としての振る舞いを期待する母。

そして、ずっと家族を支えてきたにも関わらず、家族たちが自分よりもルイを尊重することに傷つく兄アントワーヌ。私は、この作品の真の主人公は兄アントワーヌだと感じた。

アントワーヌはルイを酷く憎んでいるが、確かに愛してもいる。ルイが傷ついた過去の出来事や現在の状況も想像できていて、ひとりで胸にしまっている(ルイの病名の予想は妻と共有しているが)。聖書に出てくる【放蕩息子のたとえ話】の兄のように嫉妬し怒るが、聖書と違い諭してくれる父はおらず、あるのはただ絶望だけ。

アントワーヌは、ルイの告白を徹底的に阻止する。そこに見える複雑すぎる感情の絡まり。最後に爆発するアントワーヌの心の叫びに、涙せずにはいられなかった。ヴァンサン・カッセル、見事。

アントワーヌの妻を演じたマリオン・コティヤールの名演にも舌を巻いた。ルイをエイズ発症者だと予想している兄嫁は、ルイとの挨拶のキスに躊躇し、ぎこちなく子供達の不在を弁明する。彼女はルイの余命を確認するため、何度も遠回しにカマをかける。そして、おそらく夫からはDVを受けているのに、夫への同情心も捨てきれないこと、この家族の中で異質であるルイに深く共感してしまうこと、などあらゆる複雑な感情を表現する。ほとんど表情だけで。

兄は、愛を返さないルイが赦されることを許さない。今になって『愛しているふり』をして愛されようとしたルイを許せない。そして、結局は母もそんな兄に追随する。冒頭からルイは家族に対してとことん無関心だった。兄は、ルイを拒絶することで家族を守ることを選ぶ。

妹だけが、ルイのズルさに気づかないで混乱するが、それは結果的にルイに憧れを抱いたままでいることができるということでもある。全力で兄が守ってくれたから。兄嫁はその全てを理解した上で沈黙する。許されなかったルイは、永遠に孤独だ。

家族とは。愛とは。濃密すぎる感情のぶつかり合いが素晴らしかった。
umisodachi

umisodachi